昨年の Capital/EMI と、ユニバーサル・ミュージック・グループの合併により、近年はダイアナ・クラール(vo,p)らのアルバムを散発にリリースする以外は、ほぼ休眠していた名門インパルス・レコードが、ジャズにシンパシーが強いフランスを拠点に制作を再開し、その記念すべき第一作が、このアルバムだ。ニューオリンズ・ミュージックのソウル・サヴァイヴァー、盲目のピアニスト／シンガーのヘンリー・バトラーと、ラウンジ・リザースや、メデスキ・マーティン&ウッドのサポート・メンバーや、自己のグループ、セックス・モブ、スパニッシュ・フライなどを率いて80年代からニューヨーク・アンダーグラウンド・ジャズ・シーンのトリック・スターとして君臨するスティーヴン・バーンスタイン(tp)が、強力なタッグを組んで挑んできた。バトラーとバーンスタインの共演は、バーンスタインがサウンドトラックを手がけたロバート・アルトマン監督の映画「カンサス・シティ」（1996）から派生したカンサス・シティ・オール・スターズで1998年にツアーから始まった。そして2011年にバーンスタイン率いる、1920年代のエリントン・オーケストラのジャングル・サウンドを再現した9人編成のアンサンブル「ミレニアル・テリトリー・オーケストラ」（MTO）が、バトラーをゲストに迎え再演。ベッシー・スミス(vo,p)、ジェリー・ロール・モートン(p)のオールド・ジャズ&ブルースを演奏し、意気投合したところから第2章が始まる。MTO のリズムを、ニューオリンズ・ファンク&ジャズの名手ハーリン・ライリー(ds)とレジナルド・ヴィール(b)で増強しHot 9へとヴァージョン・アップ、ジェリー・ロール・モートンやファッツ・ナヴァロ(p)を枠組みに、ニューオリンズ・ファンク&ブルース・スタイル、はたまたニューヨーク・アンダーグラウンド・ミュージック・シーンのアヴァンギャルド・スタイルでプレイするというのが本作だ。Hot 9の前身の MTO は、前時代に模倣する音楽がなかった1920年代のジャズこそ、最もクリエイティヴだったという仮説に基づいて、クラリネット、ヴァイオリン、バンジョーを含むアンサンブルで、オールド・エリントン・ナンバーから、プリンス、ビートルズ、スライ＆ファミリー・ストーンのカヴァーまでやってしまうという超雑食性グループだったが、今回は、ヘンリー・バトラーという触媒を得て音楽のフォーカスが明確に定まり、そのファンキー&グルーヴィーさに磨きがかかった。ライヴで聴いても MTO 時代と同じく、大まかなヘッド・アレンジを、ステージ上でバーンスタインの指示でスポンテニアスに展開させ、予想のつかない地点に導いていく。バトラーのピアノとヴォーカルが、ホーン・セクションとの相互刺激で、さらなる高みに昇っていった。
　当アルバムのような野心作を復活第一作に選んだのも、インパルス・レコードの新たな決意表明であろう。今後、ケニー・バロン(p)、ジャッキー・テラソン(p)、ランディ・ウェストン(p)の新作や、先日逝去した、チャーリー・ヘイデン(b)と、ジム・ホール(g)のデュオ録音のリリースも予定されているという。インパルス・レコードの動向も要注目である。（常盤武彦）