技能、表現力満点。どこか日本の学生ビッグ・バンドに似てる．．．

稲岡編集長から送られたCDは『Time Stamping』。冒頭、勇壮なラージ・アンサンブルが飛び出してきた。ありゃ、確かタイガー大越のお弟子さんのトランペット奏者じゃなかったっけ？Jae Cheol Ohなるトランペット奏者はもちろん初めて聞く名前で、さっそく検索してみると、ハングルによる記述がいろいろ出てくる。どうやら韓国系で、バークリー出身のプレイヤーらしい。トランペット奏者というより、作編曲を専門としている様子。バークリーではトランペット奏者として様々なビッグ・バンドでプレイしたけど、次第に、自分で好きな音楽を作編曲できないかと考えるようになったとコメントしている。
「最初は Old Musician を聴く事から始めた。デューク・エリントン、スタン・ケントン、カウント・ベイシー、ギル・エバンスといった人たちだ。最近ではModern Big Bandを聴いている。マリア・シュナイダー、もちろんロイ・ハーグローブ、そして『ジャズ・スタンダード』で演っているミンガス・ビッグ・バンドなんかだね。」
　なるほど、オープナーの＜Introgy＞には、Jae Cheol Ohが「現代のビッグ・バンド」と呼ぶマリア・シュナイダーやロイ・ハーグローブにも通じるソリッドなテイストがある。そこが「Old Musician」との決定的な違いで、ベイシーのトップ・スピードと現代のビッグ・バンドの最高速とは、まったく肌合いが異なるように、このJae Cheol Oh率いるビッグ・バンドは、多彩なテクスチュアとカラー、旧弊なジャズの形式にとらわれないボリューム感が魅力なのだ。バークリー出身者であるからして、もちろん技量優秀。ソロも素晴らしい。続く「Remembered Hardly」は、Jae Cheol Ohが「僕らの世代のすばらしいトランペット奏者の１人」と呼ぶロイ・ハーグローブに捧げられている。Jae Cheol Ohのペンはあくまでナイーブ、そして涼やか。フルートを加えたサックス・セクションの動きが新鮮だ。
　Youtubeを見ると、このJae Cheol Ohだけでなくてレコーディング・メンバー全員若い若い！その若さが全面に出ているが、そこが破天荒で荒削りにならないところが、現代の若さなのだろう。技能、表現力満点。でもどこか日本の学生ビッグ・バンドに似てるよね。（都並清史）

都並清史 Tsunami Kiyoshi
東京生まれ。「立教大学 ニュー・スウィンギン・ハード」OB。ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストで「敢闘賞」(1978)「最優秀賞」「優秀ソリスト賞受賞」(1980)をそれぞれ受賞。近田春夫の「ビブラストーンズ」を経てジャズ・ライターに。「スイング・ジャーナル」誌他で健筆を振るった。サッカー元全日本代表の都並敏史（現解説者）は実弟。共著に「200CD 21世紀へのジャズ」（立風書房）他。