引き出しが多い異色のトランペッター

Billy Bussはカリフォルニア州バークレーの出身、9歳の時にタワー・オブ・パワーのミック・ジレットに楽器の手ほどきを受けたという、いかにもウエスト・コーストっぽい音楽的キャリアだ。この人もタイガー大越の生徒で、Billy Bussが16歳からの付き合いとか。バークリー（出身ではなく音楽院の方）卒業後は、モンク・インスティチュードで2年間、テレンス・ブランチャードに師事、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックなどにも教わったという。

「彼のCDはラップ・トップを使い、彼一人で（僕も少し手伝いましたが）ミックスしたものです。少し色々エフェクトをオーバー・ユースした気がしていますが、若い人たちのやりたいようにやるのも良いかと思います。」というタイガーのコメント通り、この作品だけでは 、トランペット奏者としてのBilly Bussの全貌は掴みにくい。もちろんブライトな音色で臆せず吹き進める感じは勢いがあって好きだし、時折顔を出すベンドも師匠であるテレンス・ブランチャード風味でニヤリとさせる。

　冒頭の＜The Summons(CFYK)＞でも、テーマのメロディこそやや落ち着いているけれど、 Billy Buss 自身だけでなく、サックス、エレクトリック・ピアノのソロすべて、ベースも含めて音色がストリート方向にいっちゃってます。この辺りで純正ジャズ・ファンの評価が分かれると思うけれど、そういえばテレンス・ブランチャードにも、名作『モ・ベター・ブルース』における名演があったわけで、2曲目のスローな＜Waiting for You＞を聴きながらそんな事を思い出しました。

　それにしてもBilly Buss、かなり異色のプレイヤーだと思います。前述したようにCDだけではわからんと思い、いろいろ検索してみるといろいろ気になる動画が出てきます。クラブでモンクの＜Ask Me Now＞をフリューゲルでしっとりプレイしていたり、何やら中国系TVの素人オーディションみたいな番組で、クリス・ボッティ風に吹いていたりと、なかなか本音が見えません。でも、間違いなく引き出しが多い感じ。まだまだ驚かせてくれそう。

　ちょっと浅めのマウスピースかな。まあ音楽性も楽器のセッティングも、今号でご紹介したDavid Nevesの正反対という感じ。でも、この人はうまいです。じつはYoutubeの素のフリューゲルに脱帽しました。（都並清史）

都並清史 Tsunami Kiyoshi
東京生まれ。「立教大学 ニュー・スウィンギン・ハード」OB。ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストで「敢闘賞」(1978)「最優秀賞」「優秀ソリスト賞受賞」(1980)をそれぞれ受賞。近田春夫の「ビブラストーンズ」を経てジャズ・ライターに。「スイング・ジャーナル」誌他で健筆を振るった。サッカー元全日本代表の都並敏史（現解説者）は実弟。共著に「200CD 21世紀へのジャズ」（立風書房）他。