#  1125

『内田修ジャズコレクション /人物VOL.1 高柳昌行』
text by Kenny Inaoka


岡崎市立中央図書館 OUJC-002
2000円(税込)

1. Portrait(作曲:高柳昌行/富樫雅彦)10:48

高柳昌行(g) 富樫雅彦(ds)
1984.4.28 ヤマハ・ジャズ・クラブ第110 回20 周年記念コンサート

2. Improvisation(作曲:高柳昌行)8:07

高柳昌行(g) 井野信義(b)
1991.4.7 ヤマハ・ジャズ・クラブ第129 回“For Jo-Jo”

3. All the Things You Are(作曲:Jerome Kern)7:47

4. Peace(作曲:Horace Silver)7:24

5. Israel(作曲:JOHNNY CARISI)6:36

高柳昌行(g) 渡辺貞夫(as)
1981.10.18 ヤマハ・ジャズ・クラブ第100 回記念コンサート

6. Tokyo Dating(作曲:渡辺貞夫)7:17

7. One For Jo-Jo(作曲:渡辺貞夫)9:36

高柳昌行(g) 渡辺貞夫(as) 渋谷毅(p) 井野信義(b) 富樫雅彦(ds)
1991.4.7 ヤマハ・ジャズ・クラブ第129 回“For Jo-Jo”

監修:佐藤允彦

愛知県岡崎市の内田病院で外科医として腕を振るっていた内田修医博(1929~)は「ドクター・ジャズ」として内外のミュージシャン、ファンに良く知られた存在である。多くの内外のミュージシャンが内田病院や自宅内のドクターズ・スタジオを去来、逗留、1997年に150回例会を以て終了したコンサート「ヤマハ・ジャズ・クラブ」を通じて氏と交流してきた。1992年、内田病院を閉鎖、外科医としての第一線を退くとともに、自ら所有していた膨大な音源や資料を岡崎市に寄贈、岡崎市では市立岡崎美術博物館で何度か企画展を開いて資料を公開したのち、2008年に岡崎市中央図書館交流プラザ内に常設の「内田修ジャズコレクション展示室」を開設、多くの貴重な資料を市民に公開するに至っている。
氏は、1963年以降、先進的ミュージシャンの実験・発表の場であった銀座「銀巴里」にレコーダーを持ち込み、あるいは1964年に開設した「ドクターズ・スタジオ」でのプライベート・セッション、同年からライヴ・コンサートを始めた名古屋のヤマハ・ジャズ・クラブでの演奏を多数収録してきた。岡崎市ではこれら貴重なアーカイヴの中から監修者に佐藤允彦氏を立て、「カタログ編」と「人物編」の2つのテーマで「史的に価値があること」と「世に紹介すべき優れた演奏であること」を指標に選曲を依頼、漸次CDを通して広く公開することとした。
「人物編」はアーカイヴの中から特定のミュージシャンの演奏を集めたもので、第1集はギターの高柳昌行。高柳は1932年東京の生まれ。「カタログ編」でも取り上げられているように、1960年代初頭、カルテット「ジャズ・アカデミー」から音楽家集団「新世紀音楽研究所」を通じてベーシストの金井秀人と共に日本のフリージャズの黎明期を牽引した。その生き方、音楽が自己の信念に忠実なあまり他者と軋轢を起こす事も多かったが、一方では自ら開いたギター教室を通じて多くの門下生を輩出している。1991年6月、肝硬変で58年の生涯を閉じる数ヶ月前開かれたリサイタルで、「最近、CDがリリースされたり、こんなリサイタルを開いてくれたりと皆やたらに親切なんだ。何だか後がないような気にさせられている」と口にした言葉が耳にこびりついている。事実、医師から余命を知らされた周囲の者がお膳立てしたものだった。このアルバムに収められた6曲は、3つのセッションから選ばれているが、すべてヤマハ・ジャズ・クラブ主催のコンサート。内田氏の高柳に対する高い評価と深い愛情が窺い知れる扱いである。最初の2曲は、これぞ高柳のギタリズムともいうべき精華。スマホにダウンロードしてイヤーフォンで聴きながら渋谷の駅前交差点から道玄坂を汗を噴き出しながら神泉まで上る。高柳がギターを弾(はじ)き、叩き、引っ張り、締め上げ、擦(こす)る。ギターが断末魔の悲鳴を上げる。さて、この音世界こそわれわれのリアルな生き様の反映ではないのか。蔓延する不条理に苦しみのたうち回る..。3〜7の5曲は一転、渡辺貞夫を迎えてのスタンダードとメロディアスなオリジナル。高柳は数曲でソロを交えながらもあくまでクラシック調のコードワークとアルベジオで付き添う。渡辺(1932~)と高柳はひとつ違いの親友同士というが、渡辺の快調極まるアルトに対し、高柳のギターがどこかよそよそしく、時にはつましくさえ響くのは聴き手の先入観によるものか。渡辺が高柳をひたすら鼓舞する姿勢は分かる。しかし...。あるいは、若者がさんざめく虚飾の街・渋谷は高柳にはふさわしくないのだろう。神泉からの帰途、スマホは無邪気に渡辺とのセッションを再生していた。(稲岡邦弥)

* 関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/270.html
http://www.jazztokyo.com/five/five899.html

稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。
Jazz Tokyo編集長。

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