#  1126

『Charles Lloyd / Arrows Into Infinity~A film by Dorothy Darr and Jeffery Morse』
text by Kenny Inaoka


ECM 5052_DVD

DVD Version:
NTSC, 16:9, Disc type: 9, Region Code: 0 (world wide), Dolby Digital 5.1 and 2.0, Language: English, Subtitles: English, German, French, Italian, Spanish, Total time: ~113 min.
© 2013 Forest Farm + Art and deepfield

サックス奏者チャールス・ロイド(1938~)がその長いキャリアを通じて自らの人生哲学、音楽哲学を語る約2時間の旅。日本語のスーパーは付いていないが、日本のファンには英語のスーパーが助けになる。もっとも、映像を追っていくだけでも充分楽しめることは楽しめるのだが。ハイライトはやはり<フォレスト・フラワー>の世界的なヒットに伴いキース・ジャレット、セシル・マクビー、ジャック・ディジョネットを含むカルテットで世界を巡る旅と、カリフォルニアの僻地ビッグ・サーに隠遁していたチャールスがミシェル・ペトルチアーニのデビューに手を貸すかたちで再帰するくだりだろう。どちらもよく知られた事実だが映像とともにチャールス自身の口から語られると思わず身を乗り出し、気が付くと掌が汗ばんでいる...。キースやジャックの若い頃の演奏場面では、マイルス時代に次ぐエキサイティングなシーンだろう。
冒頭、和装の花嫁姿や萌え系少女、築地の魚市場などで日本が点描され、いささか面食らう。チャールスは魚座だそう。児山紀芳氏のラジオ番組に出演するカットがあり、後に氏の質問に答えて「レスター・ヤングの影響」を告白する。
ECM録音『ヴォイス・イン・ザ・ナイト』(ECM1674/1998)で<フォレスト・フラワー>の再演を聴くと、チャールスの成熟ぶりとレスターの影響を如実に聴き取ることができる。あるいは、名盤の誉れ高い『ジャンピング・ザ・クリーク』のオープナー、<行かないで>などのラヴ・バラードでも良いだろう。しかし、筆者が耳にしたECMデビュー前のカルテットの演奏で、チャールスはパワフルだったがブロウ気味、音も粗かった。1989年のECMの最初の録音『フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター』のセッションを振り返り、チャールスは「暑い国から来た僕を寒い国から来た人がうまく録れるのだろうかと心配だったが、プレイバックを聴いて涙が溢れた。この人たちは、音楽以上の心まで録っている...」と述懐している。後半で写真家の中平穂積氏の個展を訪ねるシーンがある。チャールスはモンゴルとアメリカ先住民族の混血と聞いたが日本の風土や日本人のメンタリティが肌に合うようだ。ビッグ・サーでスピリチュアルな生活を送っていたことにも拠るのだろう。
この作品は、ドロシー・ダールとジェフリー・モースの共同プロジェクトである。ドロシーはチャールスの伴侶で今年で46年目になるという。マンフレート・アイヒャーの信任を得て、チャールスのアルバムをプロデュースし、写真を撮影し、アートワークをデザインする。チャールスのすべてを知り尽くしたドロシーあってこそ、音楽家を超え、ひとりの人間の内奥にまで迫ったこの感動的な作品が生まれたことは言うまでもない。(稲岡邦弥)

稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。
Jazz Tokyo編集長。
https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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