#  1127

『Farmers By Nature : Gerald Cleaver・William Parker・Craig Taborn. / Love and Ghosts』
text by Masanori Tada


AUM Fidelity AUM089/90

Gerald Cleaver(ds)
William Parker(b)
Craig Taborn(p)

CD A-Marseille
1 . Love and Ghosts .18:05
2 . Without A Name .6:50
3 . Aquilo .16:10
4 . Seven Years In .16:21
5 . Massalia .12:29

CD B-Besançon
6 . The Green City .9:16
7 . Bisanz .21:09
8 . Comté .17:58
9 . Castle #2 .10:45
10 . Les Flaneurs .4:50

All compositions by Gerald Cleaver, William Parker, Craig Taborn

ひとはいつどのようにウイリアム・パーカー(1952〜)を知るのだろう。

ここJazz Tokyoでの横井一江さんのレポート(http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v31_index.html)では、京都賞でのセシル・テイラーが活写されているが、能の音楽に反応する84歳のセシル・テイラー、モンクを連想し、スピリチュアルを語る。彼はモンクであったし、スピリチュアルであるし、もう、彼にとって素晴らしいものはすべて一緒なのだ。賞金5000万が知人にパクられるというニュースも追っかけてきて、そんなに高額なのかと驚いてみたり、84にもなって使い道があるのだろうかと余計な心配をしてみたり。お金が戻ってきたら無いものと思って、いろいろレコードを制作する資金にしてほしいと余計な想いを抱いたり。

AUM FidelityレーベルやジャズフェスVision Festivalで、ダウンタウンのジャズ・シーンを牽引する中心的存在であるベーシスト、ウイリアム・パーカーはセシル・テイラーによって育まれた巨星だ。

デヴィッド・S・ウェアのカルテットでも聴いていたが、度肝を抜かれてコレクターになってしまったのはウイリアム・パーカーのベース・ソロを聴いてからだ。インターネット時代の前からパーカーの音盤を追いかけて、セシル・テイラーのセッショングラフィーで門下生であったことを知った按配だ。

『回想のジョン・ケージ 同時代を生きた8人へのインタビュー』末延芳晴編(音楽之友社)を読むと、小杉武久が93年3月30日のインタビューにおいて、即興について言及している。デレク・ベイリー、スティーブ・レイシーの名前をあげて「彼らの意識している世界が、音楽だけじゃなくて、それを越えたレベルに開かれていることがわかるんですよね。」と、その次に出てくる演奏家の名前がウイリアム・パーカーなのにびっくりする。

「ウイリアム・パーカーなんか、ベースをボンボン弾くんだけど、ものすごくでかい惑星が回っているようで、一緒にやってて最高に気分がいいですよね。向こうは向こうで勝手に自転していて、僕は僕で自転している。すごくゆったりしていて、それでいて、どこか引力で引き合っている。確かに、ベースを弾いて音を出しているんだけど、別のものになっちゃってるんですね。多分惑星になっているんですね(笑)。」

ウイリアム・パーカーのベースは特別なものだ。これだけ音楽の引力を持つ奏者は、いない。小杉武久の慧眼にあやかって、わたしは以来「惑星ウイリアム・パーカー」と呼称している。

さてさて、CDレビューだ。

現代ジャズの最強トリオと言い切ってもいいんじゃないだろうか。

ピアニストのクレイグ・テイボーン(1970〜)は、マシュー・シップが主導したThirsty Ears ブルーシリーズでの傑作『Junk Magic』(2004)や、ティム・バーンとの活動、そして人気を博したクリス・ポッター・アンダーグラウンドでのキーボード奏者として、カッティングエッジなジャズを追いかけるジャズ・リスナーにとって注目のキーボード/ピアノ奏者だったけれど、2011年に突如としてECMレーベルからリリースされた『Avenging Angel』で全世界の注目を集めるピアニストになったと言っていい。

ダウンタウンのミュージシャンたちが中心的に投票した年間ベスト『El Intruso 6th Annual Musicians Poll - 2011』(http://elintruso.com/2012/02/05/el-intruso-6th-annual-musicians-poll-2011/)で、堂々の1位に輝いてる。このランキングに示された視野は、ジャズという用語は使用されず“New Creative Music”と称されているところに、現代ジャズ・シーンを読み解く鍵と、ジャーナリスティックな困難が現れているように思う。

テイボーンが翌年同じECMレーベルからシーンに突き付けたピアノ・トリオ盤が『Chants』で、メンバーはCraig Taborn (p), Thomas Morgan (b), Gerald Cleaver (ds)。ベースのトーマス・モーガンは、菊地雅章、ポール・モチアンによって見出され育まれた逸材で、その3人での『Sunrise』(ECM)2012は、シーンを超える北極星のような存在である。

そのテイボーン『Chants』トリオのベースが惑星ウイリアム・パーカーであるのが、このFarmers By Natureトリオなのだが。 話の順序は逆で、Farmers By Natureのほうが先だ。09年にファーストをリリースしている。

セカンド『out of this world’s distortions』2011を年間ベストに挙げた(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011b/best_cd_2011_inter_09.html)。

サードとなる本作は2枚組のライブで、フランスのマルセイユとブザンソンでのものを1枚ずつに収録している。いずれも録音は11年の6月。集中して開放された時空にあるもので、ほとんどつながって演奏されている。フェイズが変わるところで曲目を区切っているに過ぎない。

彼らのような達人になると、指パッチンのかすれたリズム音でさえ、意識を向こう側へ飛ばしてしまえる。

聴くのに集中した意識を必要とするフリージャズの系列?だなんて、言わないでほしい。パーカーの惑星ぶりに、テイボーンもクリーヴァーもじつに自在な境地に音を放って交感しており、ほとんど、それこそ“沈黙の次に美しい奏であい”と言うしかない時間に覆われている。ECMアイヒャーも彼らの存在を知らないはずはなかった、でも彼が録れない理由もここには聴こえる。(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌副編集長。

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