#  1128

『People / 3x a Woman: The Misplaced Files』
text by Masanori Tada and Takeshi Goda


Telegraph Harp 2014

Mary Halvorson (g)
Kevin Shea (of Mostly Other People Do the Killing) (ds)
Kyle Forester (b)
Peter Evans (tp)
Sam Kulik (tb)
Dan Peck (tuba).

1 . A Song With Melody And Harmony And Words And Rhythm
2 . Supersensible Hydrofracked Dystopia!!!
3 . Zwischenspiel
4 . Reinterpreting Confusing Lyrics To Popular Songs
5 . Interoperable Intertrigo
6 . Piles For Miles
7 . Psychic Recapitulation
8 . The Virtuous Relapse
9 . The Caveman Connection
10 . The Lyrics Are Simultaneously About How The Song Starts And What the Lyrics Are About
11 . The Disambiguated Clone
12 . Prolegomenon
13 . These Words Make Up The Lyrics Of The Song
14 . What's So Woman About That Woman

カチッとジャズやロックの技法を開帳している風情もないユルさに漂う

米ダウンビート誌ではフリゼール、メセニーに次いで3位の人気を獲得するギタリスト、現代ジャズ界のめがね女子、メアリー・ハルヴァーソンMary Halvorson。新人とか注目の、ではない、堂々とした3位。ローゼンウィンケルやヤコブ・ブロは何位なの?と、その報せに驚く。

ハルヴァーソンがクリス・スピード、エイヴィン・オプスヴィーク、トーマス・フジワラと組んだバンド「リヴァース・ブルー」のファーストも間もなく登場する。更新し続ける現代ジャズの、ジャズに聴こえるかどうかというリスナーの感覚を揺さぶる新たな発火地点となることだろう。

ぼくがメアリー・ハルヴァーソンを知ったのは、コンポスト(com-post)の八田真行さんのレビュー記事「どう考えたらいいのかわからない、しかし魅力的な音楽」(http://com-post.jp/index.php?itemid=386)、もう5年も前なのね。益子さんはもっと前に知っていたという、さすがだ。

へんなリズムや音色の感触、最初っからナナメになって歩いているように聴こえたのだけれど、確固たるコトバを語っている。謎の彗星のように耳に到来して、そのまま中毒になってしまった。益子さんとタダマス(益子博之×多田雅範=四谷音盤茶会)を始めてからは、レギュラー・メンバーのように彼女の曲をかけつづけていて、ついに昨年の年間ベスト(http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/2013_10/tx_7.htm)ではトリオのライブ盤を1位に掲げることになった。

八田さんはその後もハルヴァーソンを取り上げて(http://com-post.jp/?itemid=836)いて、鋭い批評を続けている。

今回ここで紹介するのは、オルタナ・ロック然とした彼女のヴォーカルも楽しめるブラス・セクションとの作品で、一般的なジャズからはかなり遠いところにあるものだし、評価も微妙なところだろうと思われるもの。ははは、ここ(http://www.freejazzblog.org/2014/07/people-3x-woman-misplaced-files.html)では3つ星半と判定はしているものの好評だ。

なにこれ、なにこれと聴いてしまうと、手の込んだ作曲に唸りはじめている自分もいるし、笑ってしまう自分もいる。カチッとジャズやロックの技法を開帳している風情もないユルさに漂いもしながら、ジャズ・ミュージシャンじゃなければこうはならないサムシングに満ちている。

少しだけここで試聴ができます > http://www.freejazzblog.org/2014/07/people-3x-woman-misplaced-files.html

さすがアンソニー・ブラクストン先生の弟子だけはある、という食いつきももはや不要かもしれない。

ハルヴァーソンはこの夏、マーク・リーボウが率いるザ・ヤング・フィラデルフィアンズの一員としてフジ・ロック・フェスやいくつかのギグに来日した。
Marc Ribot's The Young Philadelphians
Marc Ribot(Gt.), Jamaladeen Tacuma(B.), G.Calvin Weston(Dr.), Mary Halvorson(Gt.)

You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=Ufu9Lo4Z19A
(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌副編集長。

音楽的というより精神的にハモる3人+ホーントリオの交感の妙

メアリー・ハルヴァーソンのことを知ったのは、仙川のカフェでの多田雅範氏との会話中だった。私が口にした「変拍子オルタナ・ロック」という一言に、多田氏が「そう言えば・・」とハルヴァーソンのトリオのことを話してくれたのだ。それまで彼女のことはまったく知らなかったが、ダウンビートの人気投票で3位ということよりも、ジャズ界のメガネ美人という言葉に心が惹かれた。

多田氏が送ってくれた音源をさっそく聴いてみた。「ん?あれれ?何?何だかこれ・・・凄いじゃん!」と心が震えた。ハルヴァーソンの不安定な歌声とギタリストなのにソロを一切弾かないストイックさにも痺れたが、肝は何と言ってもケヴィン・シェア Kevin Sheaのドラムである。スウィングとかグルーヴとか呼ぶ以前に、ビートがダンスというより「盆踊り」しているのだ。

個人的に好きなドラマーの筆頭に、ロックバンド「ザ・フー」のキース・ムーンがいる。ホテルの部屋を滅茶苦茶にしたり、ロールスロイスでプールに飛び込んだりと伝説的な奇行で有名だが、本業のドラミングも超個性的。リズム・キープを無視して、ドラムを破壊するほどの派手なアクションで叩き捲り、ヴォーカリストより目立つ「リード・ドラム」スタイルは、文字通りのドラム革命として、音楽シーンに大きな影響を与えた。

果たしてケヴィン・シェアがキース・ムーンの影響を受けたかどうかは分からないが、あまりに奔放な叩きっぷりには、Moon(月)のラテン名Lunaが意味する「狂気」の血が流れているのは間違いない。その狂気はPierrot Lunaire(月に憑かれたピエロ)の如きこのトリオのサウンドの根本を成している。ひとつのジャンルやスタイルに収まらない気まぐれな音楽性、タイトルからして偏執狂的な歌の世界、音楽的というより精神的にハモる3人+ホーントリオの交感の妙。

ハルヴァーソンの日本での知名度がどの程度なのかは知らないが、大胆にもピープル Peopleと名乗り、人々の狂気を明ら様にするこのトリオを紹介する際には、ジャズ・ギタリストという肩書を語る必要はなかろう。

冒頭の会話で触れた変拍子オルタナ・ロックとは、ディアフーフ Deerhoofという日本人女性がヴォーカルを務めるアメリカのロックバンドのこと。ノイズロック/脱臼ロックと呼ばれながら、あくまでポップ性のある音世界を追求するスタイルは、ピープルにも驚くほど当てはまる。鹿(deer)と人(people)の想定外のリエゾンに驚くが、それよりも、初対面にも拘らずアイドルの魅力を力説する筆者との会話の中で、何故多田氏の頭にこのバンドが浮かんだのか、摩訶不思議である。それこそ音楽がもたらす奇跡的な以心伝心に違いない。音楽の魔法に深く感謝する次第である。 (剛田武)

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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NEW1.31 '16

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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