# 1129
『チェカレリ、ピルク、ブラメリー/TWENTY』
text by Yumi Mochizuki
Bonsai Music BON140201 |
ジャン=ミッシェル・ピルク(p)
トマ・ブラメリー(b)
アンドレ・チェカレリ(ds)
1. All Blues (M.Davis)
2. Cry Baby Cry (J-M.Pilc)
3. On Green Dolphin Street (B.Caper)
4. Twenty (A.Ceccarelli, J-M.Pilc, T.Bramerie)
5. Opus #3 (A.Ceccarelli, J-M.Pilc, T.Bramerie)
6. Ne Me Quitte Pas (Jacques Brel)
7. Old Devil Moon (B.Lane)
8. Returning (J-M.Pilc)
9. Things Are (J-M.Pilc)
10. Straight No Chaser (T.Monk)
11. L’Auvergnat (Georges Brassens)
12. Solar(M.Davis)
エンジニア:Frédéric Bétin
録音:2013年8月17,18,19日 フランス、STUDIO 26にて
3者対等の立場でフリーよりからスインギーなものまで終始リラックスしたプレイを展開
チェカレリ、ピルク、ブラメリーという3人の腕達者がまるで悩みとか憂いとかは無用、純粋に音と戯れていて、パリのエスプリとでもいうような粋な世界が広がる。ユーロ・ジャズの典型ともいえる、やや前のめりで軽やかにスイングするあたりは、やはり南仏アンティーブの風が作用しているのかもしれない。3人のインタープレイ、自然なフットワークが気持ちよい。この楽しさは滅多に味わえない。
アンドレ・チェカレリ(ds)は千手観音のようにくりだす多彩なシンバルワークと、手数が多く能弁だけど繊細さも持ち合わせている趣味の良いドラマー、1947年ニース生まれで今年68歳になるがいまだ健在、ジャズマンに年齢は無用である。
一方のジャン=ミッシェル・ピルク(p)は10年ほど前からニューヨークに進出し、それ以来ニューヨークとパリを往き来して活躍の場を広げているピアニストで、日本には2003年に「シナジー・ライヴ2003」で来日、フランスのドレフュス・レーベル(日本ではビデオアーツ)からリリースされた『Welcome Home』(Dreyfus、2002)や『Follow Me』(Dreyfus,2004)で注目された。硬質なピルクのピアノとシズルの効いたチェカレリのシンバルは相性がいい。
ベースのトマ・ブラメリー(b)は永年チェカレリとコンビを組んで活動している。また、ピルクのリズムを担当していたこともあり二人とは旧知の仲である。
それぞれフランス・ジャズ界の重鎮的な立場にいる3人がトリオを組んでの本アルバムは3者対等の立場に立ってフリーよりからスインギーなものまで終始リラックスしたプレイを展開している。
選曲も有名なジャズ・スタンダードとピルクのオリジナル曲、古いスタンダード曲そして3人の共同作曲のものが程よく組み合わされていて聴き疲れのしない曲順に仕上がっている。
(1)<All Blues>と(12)<Solar>はお馴染のマイルス曲で、チェカレリは10年前に録音した代表作『Carte Blanche』(Dreyfus、2004)でもこの2曲を演奏しているが、実はこの時もベースはトマ・ブラメリーであった。久々にチェカレリの華麗なドラミング、シンバルの嵐が炸裂するが、うるさくないところにチェカレリのシックな音楽センスがあらわれている。
ジャズ・スタンダードではモンクの(10)<Straight No Chaser>もとりあげられているが、モンクへの畏敬の念は忘れずに、しかし子供のように無邪気に、そしてダイナミックなタッチで軽々とこの難曲をスイングさせるあたりが正にピルク流。
アルバム・タイトル曲の(4)<Twenty>と(5)<Opus #3>はチェカレリ、ピルク、ブラメリーの合作とクレジットされている。おそらく、スタジオで自然発生的に作曲したものと思われるが<Twenty>ではピルクがソロでテーマを提示した後チェカレリがブラシで加わり、続いてブラメリーがビートを設定し、フリーな即興に入る。<Opus#3>ではチェカレリの俊敏なドラム・ソロから始まり3人のソロの応酬に展開する。3人が気持ちよさそうに音と戯れているのは傍で聴いていても楽しいものである。
チェカレリとピルクはこれまでにも自国の歌、シャンソンを採りあげているがここでも2曲、ジャック・ブレルの(6)<Ne Me Quitte Pas(行かないで)>とジョルジュ・ブラッサンスの(11)<L’ Auvergnat(オーベルニュの人に捧げる唄)>を演奏している。シャンソンの持つ物憂さなど微塵も見せずただただ美しくメロディーを紡ぐ。このからっとした明るさにピルクの本来の姿を見る。ここではピルクのロマンティックな一面が聴ける。
ピルクは今年の4月に既にソロのレコーディングを行っていて11月に『What is this thing called?』(Sunnyside Records)としてリリースされると自身のFacebookで語っている。
このピルクが参加しての新作ということもあって本アルバム『TWENTY』(Bonsai Music)に興味を持って聴いたが、この「チェカレリ=ピルク=ブラメリー」トリオはこれからも継続して活動を続けてゆけば「キューン=ユメール=ジェニークラーク」に肩を並べる強力なユニットに進化する可能性を秘めているのではないかという期待をも抱かせてくれた。次作を期待したい。(望月由美)
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
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