# 1131
『Orrin Evans / Liberation Blues』(Smoke Sessions)
text & photos by Takehiko Tokiwa
2014 Smoke Sessions Records SSR-1409 |
Orrin Evans(p)
Sean Jones(tp, except 7,10,11&12)
JD Allen(ts,except 10,11& 12)
Luques Curtis(b)
Bill Stewart(ds)
Joanna Pascale (vo,12)
The Liberation Blues Suite (for Dwayne Allen Burno)
1.Devil Eyes
2.Juanita
3.A Lil' D.A.B. A Do Ya
4.A Free Man?
5.Liberation Blues
6.Simply Green
7.Anysha
8.Meant To Shine
9.Mumbo Jumbo
10.How High The Moon
11.The Theme
12.The Night Has A Thousand Eyes
Recorded Live January 10 &11, 2014 at Smoke Jazz Club, New York City.
Recorded & Produced by Paul Stache.
NYアップタウンのジャズの牙城『スモーク』にオリン・エヴァンスのグループを捉えた最新ライヴ録音
1980年代後半から、ジェシー・デイヴィス(as)やピーター・バーンスタイン(g)が毎夜のようにセッションを繰り広げ、1994年にオープンしたダウンタウンのジャズ・クラブ『スモールス』とともに、現代のジャズ・シーンを担う逸材を生み出す温床だった『オーギーズ』。1990年代後半に閉店の危機に陥った際に、スタッフの一人だったポール・スターシュが引き継ぎ、よりエステイブリッシュされたサパー・クラブ『スモーク』に模様替えし、アップタウンのジャズの牙城として、現在もニューヨーク・ジャズ・シーンの重要な一翼を担っている。昨年、満を持して『スモーク』でのライヴ録音をリリースするレーベル”Smoke Sessions"が、始動した。オーナーのスターシュが自ら録音を手がけ、グラミー受賞エンジニアのロマン・クルンが、ヴィンテージ・ニーヴのコンソールに、真空管のイコライザーで、マスタリングを手がける。同時に発売される200グラムの重量盤アナログ・ディスクは、ケヴィン・グレイによるマスタリングが施されている。フォトグラファー、ジミー・カッツによるアルバム・カヴァー写真、ダモン・スミスによる2,000語のアーティスト・インタビューのライナー・ノートと、8面のデジパックの豪華パッケージだ。CDショップでの販売はなく(と言っても、もうアメリカでは新譜を扱う CDショップは、ごくわずかだが)、アマゾンなどの通販と iTunes でのハイ・レゾリューション・ダウンロード、『スモーク』での店頭販売のみである。(日本ではディスク・ユニオンのディストリビューションで、ショップでの店頭販売がある。)『スモーク』の長年の常連出演者であるジミー・コブ(ds)、ハロルド・メイバーン(p)ら大ヴェテランから、ヴィンセント・ハーリング(as)、ジャヴォン・ジャクソン(ts)、サイラス・チェスナット(p)ら、現在まで9枚のアルバムがリリースされている。
その最新作の一枚が、今年の1月にライヴ録音された、オリン・エヴァンス(p)の本作である。ショーン・ジョーンズ(tp) 、JD・アレン(ts)、ルーケス・カーティス(b)らの長年の共演者たちに、新たにビル・スチュアート(ds)を加えて、アンサンブルの化学反応の見事な瞬間を捉えた快作だ。アルバム冒頭の5曲は”The Liberation Blues Suite"として、フィラデルフィア出身の同郷の先輩で盟友の、昨年末に腎臓疾患で急逝したデュエイン・バーノ(b)に捧げられている。冒頭2曲は、バーノのオリジナル曲。スタンダード曲<エンジェル・アイズ>を下敷きにした激しいスウィンギー・チューンの(1)で華々しくオープニングを飾る。ポエトリー・リーディングを含む(2)は、このグループのリリカルな側面をフィーチャーし、バーノへの惜別を切々と奏でる。変型ブルースのタイトル曲(4)は、ファンキーが炸裂。JD・アレンをフィーチャーしたトルディ・ピット(org)の(7)における繊細なアプローチに、息をのむ。異色のカヴァーは、ポール・モチアン(ds)の(9)。エヴァンスが、ダニー・マッキャスリン(ts)のグループで演奏して気に入り、モチアン・グループに在籍していた友人のビル・マクヘンリー(ts)からモチアン・サウンドの秘密を伝授され、自らのヴォイスに変換した。このグループのダイナミック・レンジの広さと高いポテンシャルを示すトラックである。リラックスしたピアノ・トリオの(10)、(11)でアルバムは緩やかなエンディングに向かう。(12)には録音時に、スモークに来ていたジョアン・パスカル(vo)がシット・イン。<夜は千の目を持つ>をしっとりとしたバラードで歌いあげる。パスカルは、エヴァンスがフィラデルフィアでレッスンをした頃は14歳のシャイな少女だったという。才能溢れるシンガーに成長した彼女に、エヴァンスが美しいコンピングで寄り添う。クラブの最終セットが終わる真夜中のとばりに包まれて、アルバムは余韻とともにエンディングを迎えた。
追記として、写真撮影をした8月9日のCDリリース・ギグでは、ドラムスにクラレンス・ペン、トランペットにデュウェイン・バーノと縁が深かったイングリッド・ジェンセンが参加し、ストーリーを語るような見事なプレイを聴かせてくれた。(常盤武彦)
関連リンク
・Smoke Sessions Records http://www.smokesessionsrecords.com
・Smoke Jazz & Supper Club http://www.smokejazz.com
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オリン・エヴァンス | オリン・エヴァンス | |
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イングリッド、JD | イングリッド・ジェンセン | JD アレン |
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レケス・カーティス | クラレンス・ペン |
常盤武彦 Takehiko Tokiwa
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、「ジャズでめぐるニューヨーク」(角川oneテーマ21、2006)、「ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ」(産業編集センター、2010)がある。
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