# 1134
『アントニオ・サンチェス / スリー・タイムス・スリー〜フィーチャリング・ブラッド・メルドウ-ジョン・スコフィールド-ジョー・ロバーノ』
text by Masanori Tada
CAM Jazz/キング・インターナショナル KKE-038(2CD)¥2,593+税 |
CD 1:
1. Nar-this (Nardis - Miles Davis)
2. Constellations (A. Sanchez)
3. Big Dream (A. Sanchez)
Brad Mehldau(p) Matt Brewer(b) Antonio Sanchez(ds),
Recorded in New York on 27 October 2013 at Sear Sound Studio
CD 2:
1. Fall (Wayne Shorter)
2. Nooks And Crannies (A. Sanchez)
3. Rooney And Vinski (A. Sanchez)
John Scofield(g) Christian McBride(b) Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 4 December 2013 at MSR Studio
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4. Leviathan (A. Sanchez)
5. Firenze (A. Sanchez)
6. I Mean You (Thelonious Monk)
Joe Lovano(ts) John Patitucci(b) Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 16 December 2013 at MSR Studio
えっ?サイドに回ったブラッド・メルドーのピアノ・トリオ!、その変化球はいかに。
アントニオ・サンチェス、1971年生まれのドラマー。パット・メセニー・ユニティ・バンドに抜擢され、即座にグラミー賞受賞。この9月にアメリカで公開されるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の映画『バードマン』の音楽監督をしており、まさに昇り竜。
どこにそのような才能があるのや、この春のユニティ・バンド新譜、言われてみればタイコの闊達さはメセニーの音楽を活き活きさせていたのは確かだ。
メルドー、スコフィールド、ロヴァーノ。ジャズ界の大看板、文句なしの個性、もはやリーダー作しか出さない大親分たち。この3人をそれぞれトリオ編成で自分のドラムでセッションし切る、とは。
CD1はメルドーとのトリオ。出だしから、打音の綿密なコントロール解像度の高さに、息を呑む。そうか、なるほど演りたかったことはこの顕現か。歌舞伎役者の心意気だ。いやあ、上手い。まいうー。マヌ・カチェも新しく上手いが、サンチェスもまた、だ。名曲<ナーディス>なのだが、<Nar-this>とヒネってあるのはメルドーの照れなのか。春にメルドーは、マーク・ジュリアナと組んで『メリアナ』の新境地を見せていたわけだけど、サンチェスがオレと演っても良かったんじゃないか?と言わんばかりの叩きで対抗するかのよう。それ以前に、強烈な故に行き詰まっていたメルドー・ハーモニーにおのれが抜け出せないというメルドー自身の格闘が聴きものになっている。つい『メリアナ』的になってしまう不器用さにもわたしは唸る。
それに対してCD2でのスコフィールド、ロヴァーノの図太さは何だ。二人とも60過ぎて、余裕ぶっこいてやりたい放題だろ、どう弾いても、どう吹いても、彼の音楽になっているという横綱相撲。しかも、サンチェスのドラムというまな板の上で泳がされて、いつもならCDにしないようなハミ出しを奏でている。主役しかしないスターが、脇で怪演をする図式。CD2でのサンチェスは大親分を泳がせるのに、多芸でカラフルな叩きを楽しんでいる。
三人の大親分の中で、最も懐の深さを見せつけたのはロヴァーノかもしれない。80年代以降で最も影響力のあるサックス奏者であるとは、あまり誰も言わないが、ちょっとしたコントロールで音の行方を左右してしまう強靭なデリカシー、打撃だけを問題にしてきた格闘に合気道の達人が現れたようなものなのだ。モチアン、フリーゼル、ロヴァーノの三人が拓いていた現代ジャズの水脈のことだ。
わたしもいつしか昔話ばかりしている耳になったものだ。新しい音楽は、いや単に新譜という意味でいい、新しく届く音楽は必ず歴史の反響を背負っている。でなければ、新しいとは言えない。
ともあれ、全音楽的ドラマーであるサンチェスは、大物共演を目指しただけではなかったようだ。料理人のような知性で、これまで聴かれなかった成果を問うている。ドラマーとしての矜持であろうし、批評になっている。(多田雅範)
多田雅範 Masanori Tada
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌ジャズ担当副編集長。
https://www.facebook.com/masanori.tada.9?fref=ts
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