#  1136

『Jeff Denson & Joshua White / I’ll Fly Away』
text by Kayo Fushiya


pfMentum PMFCD081

Jeff Denson(double bass)
Joshua White(piano)

1. I’ll Fly Away (Version One) (Albert E. Brumley)
2. Lord, I Want to be a Christian (African American Spritual)
3. Down At the Cross (Elisha E. Hoffman/John H. Stockton)
4. Amazing Grace (Anonymous)
5. I’ll Fly Away (Version Two) (Albert E. Brumley)
6. What a Friend We Have in Jesus (Charles Crozat Converse)
7. When the Saints Go Marching In (Anonymous)
8. Just As I Am (Charlotte Elliot/William B. Bradbury)
9. Crying in the Chapel (Artie Glenn)
10. In the Garden (C. Austin Miles)
11. I’ll Fly Away (Version Three) (Albert E. Brumley)

Recorded and mixed by Adam Nunoz @Fantasy Recording Studio in Berkeley, CA, on March4-5th, 2014

Mastered by Myles Boisen @Headless Buddha Studios in Oakland, CA on December28,2013
Cover Art by Ted Killian

Producer: Jeff Denson

現代に生まれ変わる温もりに満ちたアメリカの原風景

ジェフ・デンソンといえばLee Konitzのグループでの活躍もさることながら、自己のクァルテット『Secret World』(2012)でのメロディ性とアコースティックの味わいに満ちたプレイが記憶に新しい。ニューヨークの先鋭を集めたこのクァルテット編成も実にアメリカ的であるといえるが、今回時を同じくして発売された二作のデュオ・アルバムのうち (片やヨーロッパ気鋭のリード奏者 クラウディオ・プンティンとのデュオ)の一作『I’ll Fly Away』は、西海岸が生んだ若手のホープ、ジョシュア・ホワイトをピアノに迎え、エッジの効いたコンテンポラリー・ジャズとは真逆の、もうひとつのアメリカたる心の原風景を伝えている。曲目はもはや国境をこえて知名度を得ているゴスペルの名曲の数々だが、やはりポイントはジョシュア・ホワイトという人選である。ジョシュアは幼少よりクラシックの分野で頭角を現したが、平行して教会付のピアニスト兼オルガニストとして活動、ジャズに専心するのはその後である(南カリフォルニアのジャズ・コミュニティでは引っ張りだこの存在であったが、彼の才能をいちはやく評価したのが、かのマーク・ドレッサーであるのも興味深い)。このアルバムに収められている楽曲の数々は、いわば彼にとっては血肉ともいえる音楽の原点。なるほど、溢れ出るパッションの瞬時のコントロール、パワフルなアタック、ソウルフルにうねるフィーリング、カラフルな音色等、聴き手を鷲づかみにする華やかな魅力がある。がっちりと絡むジェフ・デンソンのダブルベースは当然完全アコースティック、繊細なアプローチと豪胆な指弾きの同居が織りなす変化に富んだニュアンスは『Secret World』と同様だが、今回は楽曲の凛々しさを前面にだすためか、一歩後ろへ引いた抑制感にも秀でる。音の捌けの良さにも変わりはない。聴き手にひりつくような爪あとをもたらすのはダブルベースのソロによる4. Amazing Graceで、縦横無尽に展開されるボウイングが生み出す豊かなハーモニクスの重なり、その響きの融和のオリジナリティは、この曲をソロで解釈したもののなかでは屈指の完成度であるといえる。ふたりのフリー・インプロの奔流がぶつかり合う8. Just I Amも聴きもの。各々がどれほど我が道を突き進もうと、楽曲としての構築性は全く損なわれていないところにプレイヤーとしての底力が如実に。揺るぎない基礎体力の高さである。過去の様々な偉人プレイヤーの影も要所に偲ばせつつ、ハートフルに唄い上げられる誰もが知っているメロディ。そこはジャズの歴史のみならず、大小さまざまな個人の記憶も同時に巻き込んでは更新される場なのではないだろうか。亡くなったジェフの叔母に捧げるアルバムだというが、アメリカという自らのルーツへの多大なるオマージュを当然兼ねる。ふたりの卓越したインプロヴァイザーの、プレイヤー/解釈者としての側面を再認識できる点でも秀逸な1枚 (伏谷佳代)。

〈関連リンク〉
http://www.jazztokyo.com/five/five915.html
http://www.jeffdenson.com/
http://joshuawhitemusic.com/

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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