# 1140
『Akira Sakata, Johan Berthling, Paal Nilssen-Love / ARASHI』
text by Kazue Yokoi
Trost Records TR130 |
Akira Sakata (as, cl, voice)
Johan Berthling (b)
Paal Nilssen-Love (ds)
1. ARASHI (STORM)
2. ONDO NO HUMA-UTA (ROWER’S SONG OF ONDO)
3. DORA
4. FUKUSHIMA NO IMA (FUKUSHIMA NOW)
Recorded at Decibel Studio, Stockholm
By Dagge Lundquist 19th July 2013
ドラムが端緒を切る。そして、続くアルトサックスのサウンドに吹き飛ばされそうになる。強者のベースの音も背後に。この3者のテンションの高さ、スピード感にまず圧倒された。天候に例えるなら大暴風雨、名が体を表す、まさしく<ARASHI>。怒涛の音の嵐が吹き荒れるフリージャズで始まったこのCDは、坂田明とこの数年頻繁に来日し、日本人ミュージシャンとも共演してきた今が旬のドラマー、ポール・ニルセン・ラヴと“ファイアー”や“テープ”での活動で知られるベーシスト、ヨハン・バットリングとのトリオによるストックホルムでの録音盤である。続く<ONDO NO HUNA-UTA>つまり広島県の民謡<音戸の舟唄>、坂田は『平家物語 実況録音 映像編』でも披露していたが、ここではほとんど原形をとどめないほどの絶叫ヴォイスに荒れ狂うドラムとベース、暴風雨の中で錐揉みされつつ難所を通過しようとする舟、あるいは嵐の中の合戦の真っ只中に居るようである。<DORA>で再び坂田のアルトサックスが咆哮、ステディでパワフルなニルセン・ラヴのドラム、そしてバットリングのベースが唸る。そして、ふと思う。これほどリアルに今日の音として迫ってくるフリージャズは滅多にない、と。いや今どきスタイル云々ではない。このアクチュアリティは表現者から出てくるものなのだ、と思う。速いパッセージを重ねても濁らない坂田のアルトサックスの硬質でクリアーな音色があってこそ、北欧の強者ニルセン・ラヴとバットリングの共演であればこそなのだ。最後のトラックは<FUKUSHIMA NO IMA(福島の今)>と題されていた。坂田はここでクラリネットに持ちかえ、深い低音で静かに深く内面に入り込んでいくかのよう。人の感情の起伏が、複雑な揺らぎが、硬質な鋼のような音色から立ち上がってくる。哀感を湛えた音は不安げで美しく響く。そして、ヴォイスも交える坂田。言葉では十分に表現し得ぬ何事かを音を持って聞き手に伝えている。気がついたらあっという間の43分。嵐の後の静寂に一息つき、我に返る。いい時間を頂いた。(横井一江)
*ポール・ニルセン・ラヴとヨハン・バットリングが来日、9月30日から10月8日までツアーを行う。
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横井一江(Kazue Yokoi)
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。本誌編集長。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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