#  1142

『Duo Gazzana : Poulenc / Walton / Dallapiccola / Schnittke / Silvestrov』
text by Masanori Tada
photo by Kiyotane Hayashi 林 喜代種


ECM New Series 2356

Duo Gazzana;
Natascia Gazzana (violin)
Raffaella Gazzana (piano)

Alfred Schnittke
Suite im alten Stil (1972)
I Pastorale
II Ballett
III Menuett
IV Fuge
V Pantomime

François Poulenc
Sonate pour violon et piano (1942/43, rev. 1949)
I Allegro con fuoco
II Intermezzo
III Presto tragico

Valentin Silvestrov
Hommage à J.S.B. (2009)
I Andantino
II Andantino
III Andante

William Walton
Toccata for violin and piano (1922/23)

Luigi Dallapiccola
Tartiniana seconda (1956)
I Pastorale
II Tempo di Bourree
III Presto; leggerissimo
IV Variazioni

Recorded in the Auditorio Radiotelevisione svizzera in Lugano in June 2013
Produced by Manfred Eicher

イタリアの美人デュオ、ヴァイオリンのナターシャ・ガッザーナ(Natascia Gazzana)とピアノのラファエラ・ガッザーナ(Raffaella Gazzana)のECM第2作が届いた。

筆者は第2作であることも、当サイトJazz Tokyoでのインタビュー記事も知らずに、ジャケの印象だけで入手し聴いていた。全編にわたる柔らかい詩情に、愛聴盤となった。ロマン派の作品を、新しい感覚で颯爽と弾いているようだった。

シュニトケにも、こんな聴き易い作品があるのだなあ、ヒネってます、アテツケです、カイコですと解釈を呼び込むことで成り立つ旋律ではなく、シュニトケだと知らなければ、この二人が戯れるように詩情の連鎖に身を任せるだけだろう。作品は<古い書法での組曲>という意味。特に、5曲目は愛くるしく切ないバラードだ。

アルフレット・シュニトケ(1934〜1998)
旧ソ連
フランシス・プーランク(1899〜1963)
フランス
ヴァレンティン・シルヴェストロフ(1937〜)
旧ソ連、ウクライナ
ウィリアム・ウォルトン(1902〜1983)
イギリス
ルイージ・ダッラピッコラ(1904〜1975)
イタリア

シュニトケ、プーランクは有名だが、後半の三人の作曲家は知らなかった。シルヴェストロフの作品は<バッハへのオマージュ>と題された、現代風なアンニュイを織り込んだような旋律の足取り、安易にウクライナ情勢へのコミットメントと捉えるのは控えたいが、ECMには脈々とそして静かに抵抗する姿勢はこれまでもあったもので、選曲にアイヒャーの助言はあったのではないかと思う。イギリスの作曲家ウォルトンの<トッカータ>は、作曲家20歳の時の作品でリズミックで即興的な感覚が隋所に聴かれる逸品。

ラストのダッラピッコラの作品<タルティニアーナ>は、本盤で最も深く儚く傾聴させられる音楽である。かつて、ペルトやシュニトケに前衛というドグマに囚われない新しい現代音楽の感覚を得ていたものだったが、それに先立ってこのような20世紀的な哀歌(そういう陳腐な形容しかできないでいる)が存在していたとは。ダッラピッコラはフレデリック・ジェフスキーの師である。

タガララジオ46で「現代的なコンポジションが、バロックから綿々と続く風景の中に融けて、新しく歩いてきた若い演奏者が新緑の呼吸をしているように放つさまが美しい、と、それらの現代的なコンポジションに魂を震わせてきた老人がパッケージした視線を感じ取る逸品。」とだけ記していた作品だが、聴くほどに作曲家の人生の風景や抵抗の思い、作品の深みに囚われている。

国際的なコンクールで活躍するような、アスリート然とした演奏のエッジ/強度で音楽を彫像するタイプには聴こえないデュオ・ガッザーナであるが、ここでのアイヒャーECMとの成果には、目新しいプログラムで聴かせるだけではない、その向こうの思想や風景を聴き手に問いかける強い意志があるようだ。

ピアノのラファエラに、ポピュラー音楽も含めてこれまで影響を受けた音楽についてきいてみた。彼女の年齢はわからないけれど、なかなか素敵なラインナップだ。

Horowitz plays Scriabin (RCA)
Janacek A Recollection (ECM) by A. Schiff
Beethoven Quartets
Pelleas and Melisande by Debussy
Apollon Musagete and Fire Bird by Stravinsky
Requiem Mozart
Chamber Music by Schumann
Wozzek A. Berg
Exil and Vom Winde beweint (Kashkashian) by Kancheli
Maria Callas
K. Jarrett early years (Sun Bear Concerts)
Tord Gustavsen
Arena by Duran Duran
Playing the piano Ryuichi Sakamoto
"Big Hits and Jet Lags" Pizzicato Five
Bossa Nova Joao Gilberto

デュラン・デュランというと、アーケイディアの「エレクション・デイ」が好きだなー、そこを拾うかというダメな中年おじさんなのであった。(多田雅範)

*関連リンク(インタヴュー);
http://www.jazztokyo.com/interview/interview111.html

撮影:2014.10.07@東京・白寿ホール(ミニ・リサイタル&トーク・イベント)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌副編集長。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.