#  1147

『Charles Lloyd Quartet / Manhattan Stories』
text by Kenny Inaoka


Resonace Records HCD-2016

Charles Lloyd(ts,fl)
Gábor Szabó(g)
Ron Carter(b)
Pete La Roca(ds)

CD1:
1.Sweet Georgia Bright
2.How Can I Tell You
3.Lady Gabor*

CD2:
1.Slugs’ Blues
2.Lady Gabor*
3.Dream Weaver
Comp.by C.Lloyd except*by G.Szabó

CD1:
Recorded live at Judson Hall,NY,September 3, 1965
CD2:
Recorded live at Slugs' Saloon Jazz Club,NY,November,1965
Mixing,Editing & Sound Restoration: George Klabin & Fran Gala at Resonance Records Studios, Beverly Hills
Produced by Zev Feldman & Dorothy Darr
Exectuive Producers: George Klavin & Michael Cuscuna

『フォレスト・フラワー』でブレイク前夜のチャールス・ロイドを捉えた貴重なライヴ盤

チャールス・ロイドのガボール・ザボとロン・カーター、ピート・ラロッカを擁したカルテットの1965年録音の音源が発掘され2枚組としてCDとLPで発売された。すべての権利関係をクリアした正規の商品である。正規盤どころか、プロデューサーのひとりとしてロイドのパートナーのドロシー・ダーが、またエグゼクティヴ・プロデューサーには名うてのプロデューサー、マイケル・カスクーナも名を連ね、4人の解説陣には当のカスクーナの他にジャズ界のご意見番スタンリー・クラウチも控えるという盤石の体制である。さらには、30pにわたるブックレットに、50年代、60年代のNYダウンタウンのジャズ・シーンをドキュメントしたレイモンド・ロス撮影の写真数葉を発見するに至って同時代を生きたひとりとして胸を熱くした次第である。ロスの写真とは、伝説のジャズ・クラブ「スラッグス」の外観と客席、オーナーのジェリー・シュルツの3点である。プロデューサーのゼヴ・フェルドマンによれば、レーベル.オーナーのジョージ・クラヴィンから1965年録音のチャールス・ロイド・カルテットを聴かされ、ひどく心を動かされた。クラヴィンはコロンビア大学の学生時代、WKCR-FMのジャズ担当部門長も務め、60年代の貴重なジャズ・ライヴ録音のアーカイヴを保管している。
CD化の許諾を得るためにロイドを訪ねたところ、奇しくも数ヶ月後に同じバンドでスラッグスで演奏したテープを所有しており、2つのセッションをまとめて公開する話がまとまった。ロイドは、ギターにガボールとロビー・ロバートソン、ベースにロンとアルバート・スティンソン、ドラマーにラロッカとトニー・ウィリアムスというダブル・キャストによるカルテットでアルバム『Of Course, Of Course』をコロンビアから1965年にリリースしていたが、スタジオでのお行儀の良い演奏だった。
CD1はカーネギー・ホールの対面にあった小ぶりのジャドソン・ホールでシャーロット・ムーアマンが主催した「フェスティバル・オブ・ザ・アヴァンギャルド」での演奏。CD2はそれから数ヶ月後にマンハッタンのダウンタウン、イースト・ヴィレッジのクラブ「スラッグス」での録音である。「スラッグス・サルーン」は、1965年から7年間にわたってオーネット・コールマンやミンガス、サン・ラなどのビッグネームも出演したクラブだが、ジャズファンには1972年2月19日にリー・モーガンが恋愛のもつれから妻に射殺された現場として記憶に残っている。
1938年生まれのロイドがECMで活動を始めた1989年以降の演奏を書道でいうしなやかな「草書体」とすれば、1965年当時の演奏は血気盛ん、極太の筆を大きな和紙に勢いよく振り回す「前衛書」といえよう。ロイドがキース・ジャレット(p)、セシル・マクビー(b)、ジャック・ディジョネット(ds)を擁したカルテットで『ドリーム・ウィーヴァー』、『フォレスト・フラワー』(共にAtlantic)で世界を席巻するのは1966年、67年で、当時のロイドの豪腕な演奏ぶりは数ヶ月前にリリースされた極上の音楽ビデオ『Arrows into Infinity』(ECM)でも堪能できる。
演奏は各CD3曲ずつ。ロイドの曲が4曲とガボールの<レディ・ガボール>が2つのセッションに共通した1曲。ハンガリー出身のガボールは圧政下の自由の闘士でもあり、人種差別の激しい南部出身のロイドとシンパシーを共有した。ラロッカは元々ティンバレス奏者であり、ソニー・ロリンズの影響を受けていたロイドは彼のラテン・フィールが気に入っていたようだ。<スウィート・ジョージア・ブライト>はモンクの<ブライト・ミシシッピ>にインスパイアされて書いた曲。一転、<ハウ・キャン・アイ・テル・ユー>はラヴ・ソングのようなタイトルだが、ロイドが最初に入れあげたレディ・デイに捧げたバラードで、1996年録音のアルバム『カーント(Canto)』(ECM)でも再演されている。ここでもロイドのソロは激しいが、ガボールとロンの沈着なソロが聴かせる。
<レディ・ガボール>は、ガボールが妻に想いを寄せた曲でオープンとワルツが交錯するなか、ガボールが独特のフォーキッシュなソロで本領を発揮する。ロイドのフルートが冴えを見せる。<スラッグス・ブルース>は、即席で書いたブルースで、ジェリーのMCと客席の談笑がライヴの和やかな雰囲気を伝える。ロンのソロが素晴らしい。<ドリーム・ウィーヴァー>は翌年録音のアルバムのタイトル曲。当時ロイドが強い関心を寄せていたパキスタンのアリ・アクバル・カーンやグルジェフなどの神秘思想にインスパイアされて書いた曲。むしろ淡々と経過するパターンが今で言うスピリチュアルな雰囲気を醸成する。どの曲でもロイドのソロがひどく波乱含みで、ブレイク前夜の抑え切れない情動とクリエイティヴな衝動の昂まりが噴出せざるを得ないさまが手に取るように分かる貴重なドキュメントでもある。(稲岡邦弥)

関連リンク;
*Resonance Records
http://www.resonancerecords.org/release.php?cat=HLP-9016
*Raymond Ross
http://ctsimages.com/ross.htm

稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。 Jazz Tokyo編集顧問。

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