#  1150

『マーラー/交響曲第8番 変ホ長調〜千人の交響曲』
text by Satoshi Fujiwara


エクストン(オクタヴィア・レコード)
OVCL00518(SACDハイブリッド)
\3,200(税抜)

エリアフ・インバル(指揮)東京都交響楽団
澤畑恵美(ソプラノT)、大隅智佳子(ソプラノU)、森麻季(ソプラノV)、竹本節子(メゾ・ソプラノT)、中島郁子(メゾ・ソプラノU)、福井敬(テノール)、河野克典(バリトン)、久保和範(バス)
晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊

2014年3月8日東京芸術劇場、3月9日横浜みなとみらいホールにて収録
プロデューサー:江崎友淑

インバルの芸術の進化、深化を実感

インバル&東京都交響楽団の新マーラー・ツィクルスのライヴ録音シリーズ、今回は第8番『千人の交響曲』の登場である。結論から言えば、インバルの3種の当曲の録音中でこれがベストと断言できるのではなかろうか。それは主に第2部の見事さに由来している。前回録音は2008年、インバルの都響プリンシパルコンダクター就任記念コンサートのライヴ盤であるが、この2008年盤と当盤では、第1部での解釈に大きな違いはないように思う。基本的にすっきりとした早目のテンポを取り、やたらと大風呂敷を広げずに凝縮された響きで楽曲全体の見通しが非常によい、敢えて言えば「分り易い」演奏となっていた。2008年盤では第2部もこの延長線上の印象であったのだが、当盤では第2部冒頭から様相が違う。かなりゆっくりしたテンポを取り、リズムにも絶妙な溜めと揺らぎを感じさせ、感情的に遥かに深いものを感じさせるようになっているのだ。あるいは、楽曲の「意味」を掘り起こすような内面的な演奏となっているとも言える。「森は揺らぎつつ来たり」。あるいは合唱が「あなたは触れることのできない方とはいえ」(トラック18)と合唱が歌い出す直前のヴァイオリンによる憧憬と甘美が入り混じったひそやかな恍惚の表情。繰り返すが、こういう感情的かつ内面的な演奏は、基本的に「テクスト主義者」であるかつてのインバルからは必ずしも聴き取れなかったものである。これは他の箇所でも同様だ。第2部通じて聴き所は枚挙に暇がないけれど、終結部の「神秘の合唱」も圧倒的と言う他ない。そしていつもながらエクストンの優秀録音は特筆に価する。この新マーラー・ツィクルス、筆者は全曲を実演で聴いているけれども、本年78歳となったインバルが依然その芸術を進化・深化させていることが理解できるものであったが、殊に第8以降、補遺的に演奏された第10を含めての3曲からはそれが顕著に窺われた。第9番、第10番のリリースが楽しみだ。(藤原聡)

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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