ニューヨークで活躍するボリビア出身の歌手ギアン＝カーラ・ティセラのクロスオーヴァーな異色作

ボリビア出身で、ニューヨークで活躍するソプラノ・オペラ・シンガーのギアン＝カーラ・ティセラが、オペラ、ジャズ、南米のトラディショナルなフォーク・ソングをクロスオーヴァーさせた異色作。共同プロデューサーにキューバ出身の気鋭のピアニスト、エリオ・ヴィラフランカを迎え、アルゼンチン出身のディエゴ・ウルコラ（tp,tb), ニューヨークのラテン・ミュージック・シーンを支える、プエルトリコ出身のジョン・ベニテズ(b)、ルーケス・カーティス(b)を起用し、カリブ海、南米オール・スターズの布陣をそろえた。

ボリビア第３位の規模を誇る都市、コチャバンバにボリビア人の母と、イタリア系アルゼンチン人の父の間に生まれたギアン＝カーラ・ティセラは、本国で音楽を学んだのち、ロサンゼルスでオペラ歌手の修士号を取得、２００８年にニューヨークに拠点を移した。ティセラは、アメリカ、ボリビアでオペラ歌手活動を展開しながら、自らのルーツである南米のフォーク・ソングへの郷愁や愛着、ジャズへの憧憬を持ち続けていた。本アルバムでは、オリジナルの１、５、１３、クラッシックを換骨奪胎した７、９、フォーク・ソングの１０、１１や、メキシコ、チリのポピュラー・ソング、インカ帝国の公用語だったケチュア語による曲など、多彩な曲が、ティセラのドラマチックな歌唱と、ヴィラフランカのアレンジによるラテン・リズムが、違和感のない絶妙なブレンドを聴かせてくれる。８月２１日のニューヨーク・ダウンタウンのジョーズ・パブにおけるリリース・ギグでは、英語で歌う楽曲はなく、客席にセットリストと、すべての曲の対訳が置かれていて、ティセラのオーディエンスへの並ならぬアピールの熱意が感じられた。彼女のスケールの大きな音楽観は、アメリカの音楽シーンにどのような足跡を残すか、要注目である。（常盤武彦）