# 1159
『松風紘一/GOOD NATURE』
text by Yumi Mochizuki
メモリーエフ企画/ユニバーサル・ミュージック POCS-9313 2315円+税 |
松風紘一(as,ts,cl)
初山博 (vib)
望月英明(b)
森山威男(ds)
1. ホワット・マサ・イズ…シー・イズ・アウト・トウ・ランチ
2. アンダー・コンストラクション
3. グッド・ネイチャー
4. イエロー・サンズ
5. ウォーム・パック
6. イージー・ゴーイング
作曲:松風紘一
プロデューサー:望月由美 & 丸茂正樹
エグゼクティブ・プロデューサー:稲岡邦弥
エンジニア:及川公生
録音:1981年5月9日、11日 東京、一口坂スタジオ
松風紘一(reeds)の数あるアルバムの中でも傑作中の傑作にしてメジャー・デビュー作の奇跡的なリイシュー
リーダー松風紘一(reeds)、森山威男(ds)、初山博(vib)、望月英明(b)という顔ぶれにしても、ヴァイブ入りのピアノ・レス・カルテットと云う編成にしても、全曲、自作曲でとおしたことも全てが松風紘一にとってベストに作用し、頂点を極める寸前の気迫みなぎる演奏が収められている。
当時の松風はリード奏者として最も充実した音楽生活を送っていた。1975年の中央大学の白門祭、427教室での『At The ROOM427』(ALM)、1978年の『Earth Mother』(ALM)、1980年、森山威男の『Smile』など次々と話題作に入ってその力量を発揮していた時期で、今この時点の松風の全てを多くの人に聴いてもらわなければ、との思いで当時のトリオ・レコードのプロデューサー丸茂さん(故人)にこの編成でのレコーディングの企画をご提案したところ、快くお引き受けいただいたことを今でも思い出す。当時のライヴ・シーンではドルフィーの再来などといわれるまでになっていたが、一般的にはまだ知名度はなかった松風を思い切って採用して頂いた丸茂さんには今でも感謝している。
(1)<ホワット・マサ・イズ…シー・イズ・アウト・トウ・ランチ>の「マサ」は新婚まもない松風夫人、まさみさんの名前から来ている。夫人は国立音大の同窓の方、大変愛くるしい素敵な方である。録音当日は第一子を宿していて、大きなおなかを抱えながらスタジオまで応援に来ていただきスタジオを和ませて下さった。好演の影の功労者である。因みにこの時に誕生した松風のご長男は成人して小学校の先生をされていて、偶然にも松風と親しい某ミュージシャンの子が学校で松風先生に教わっているということが最近分かった。
曲名はズバリ、ドルフィーの『OUT TO LUNCH』(Blue Note) をもじったもの。当時、和製ドルフィーと評されていたのを承知であえてこの曲名にしたようで、ここでは意表をついてテナーを吹く。ドルフィーはボビー・ハッチャーソン(vib)を相手にいなないたが、松風は初山博(vib)の心あたたまるデリケートなバッキングを得て伸び伸びと吹いている。森山威男のブラシといい、望月英明の骨太のベースといい、全員の息があった辛口のバラードが誕生した。松風はライヴでも自作の曲を演奏することが多く、既に100曲以上作曲しているというが、この曲はその中でも特別な愛奏曲としてしばしば演奏されている名バラードである。
アルバムのタイトル曲(3)<グッド・ネイチャー>はマーチ仕立てで、森山のドラムがフィーチャーされる。バッキングにしてもソロにしても森山の存在は大きい。当時、松風は森山威男カルテットに+1として加わる機会も多く、このレコーディングの半年前には森山威男カルテットの『SMILE』(DENON、1980)にゲストとして参加している間柄で森山とはぴったりと呼吸が合っている。
初山博(vib)は、専攻は違うものの、国立音大の同期。理論派で多くのミュージシャンに楽理を教えていたそうだ。現在は「アケタの店」に月一回位のペースでライヴを行っているがハーモニカにも妙味を発揮していて、そのせいかミルト・ジャクソンともゲイリー・バートンとも一味違ったほのぼのとしたブルース感覚をかもしだしている。
望月英明(b)は、現在は「アケタの店」で原田依幸のグループで演奏しているが、この頃は森山威男4、坂田明3など最も忙しいベーシストであった。
初山博と望月英明の二人は当時、筆者が企画した新宿ピットインでの「マグニチュード・セッション」から生まれた、原田依幸(p)、豊住芳三郎(ds)とのニュー・グループ「新鮮組」にも加わっていてコンビネーションもよく、森山とともに松風に思う存分吹かせる環境を作ってくれた。
松風紘一はアルト、テナー、バリトンそしてクラ、バスクラ、フルートなど多楽器奏者として知られているが中でもフルートは定評がある。渋谷毅(p)の『エッセンシャル・エリントン』(Yumi’s Alley、1999)での<Passion Flower>はそのフルートで、誰にもできない奥深い幽玄の美しさを表現した名演であったが、(5)<ウォーム・パック>でも起伏に富んだ鮮やかなフルートを吹いている。
最近の松風は自己のカルテットに石田幹雄を加えた「松風紘一カルテット+1」のほか渋谷毅の「渋谷毅オーケストラ」「エッセンシャル・エリントン」、「今村祐司GROUP」などで演奏しているが常にマイペースで自分のスタイルを貫いている。
今回のリイシューは11月5日、TRIOレーベルのジャズ・セレクト企画の第一弾、尾川雄介監修“REBEL-JAZZ/反逆のジャズ”シリーズ15枚の中の1枚で旧トリオ・レコードが残してくれた貴重な遺産から選ばれたもの。24bit、SHM-CD、発売当時のオリジナル・デザインの紙ジャケ仕様、さらに発売当時の帯付きと大変に凝っていて、和ジャズ・コレクターから注目を浴びる作りである。
このシリーズの発売を記念して「脱世代対談 〜 70年代日本のジャズ インディペンデント魂、トリオ・レコード〜KENNY稲岡×尾川雄介」がWEB上に掲載されているが本誌の編集顧問で元トリオ・レコードの稲岡邦弥さんの貴重な体験談は一読の価値がある。
http://microsites.universal-music.co.jp/ecrm/rebeljazz/index.html
また、12月3日にはセレクト企画第2弾としてオーディオのマイスター菅野沖彦さんが録音を手掛けたアルバムから15枚を“音の匠・菅野沖彦・昭和のジャズ 「モダン・スイング・シリーズ」”と題してリリースされる予定。
この第2弾を記念して元オーディオ・ラボのプロデューサー 森山浩志さんと稲岡さんが対談をしているが音楽に造詣の深いお二人の制作当時のエピソードは面白いだけではなく日本ジャズ外史として貴重なものである。
http://microsites.universal-music.co.jp/ecrm/modern_swing/index.html
このセレクト企画シリーズのさらなる展開に期待したい。(望月由美)
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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