#  1163

『Alexander von Schlippenbach - Aki Takase/So Long, Eric!〜Homage to Eric Dolphy』
text & photos by Kazue Yokoi


Intakt Records CD 239

Alexander von Schlippenbach(p,arr)
Aki Takase(p,arr)
Karl Berger(vib)
Rudi Mahall(bcl, cl)
Tobias Delius(ts)
Henrik Walsdorff(as)
Axel Dörner(tp)
Nils Wogram(tb)
Wilbert de Joode(b)
Antonio Borghini(b)
Han Bennink(ds)
Heinrich Köbberling(ds)

1. Les (Arranged by Alexander von Schlippenbach)
2. Hat And Beard (Arranged by Aki Takase)
3. The Prophet (Arranged by Aki Takase)
4. 17 West (Duo by Aki Takase & Rudi Mahall)
5. Serene (Arranged by Aki Takase)
6. Miss Ann (Arranged by Aki Takase)
7. Something Sweet, Something Tender (Arranged by Aki Takase)
8. Out There (Arranged by Alexander von Schlippenbach)
9. Out To Lunch (Arranged by Alexander von Schlippenbach)

Compositions by Eric Dolphy
Arrangements by Alexander von Schlippenbach and Aki Takase
Recorded live June 19, 20, 2014, in Berlin by Kulturradio vom Rundfunk Berlin Brandenburg
Radio producer: Ulf Drechsel
Sound supervisor: Wolfgang Hoff
Recording engineer: Jens Liebewirth.
Mixing engineer: Nikolaus Löwe
Digital cut and mastering: Ulrich Hieber
Project management: Constanze Schliebs
Photos: Kazue Yokoi
Cover art and graphic design: Jonas Schoder
Produced by Takase-Schlippenbach-Schliebs-GbR and Intakt Records, Patrik Landolt

 本盤は、ドルフィー没後50周年の今年(2014年)6月ベルリンで、芸術監督アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ、音楽監督高瀬アキによって行われたコンサート「ソー・ロング、エリック!」のライヴ録音。ドルフィーが遺した作品を二人が編曲し、公演はダブルトリオ・プラス5管、そしてカール・ベルガーのヴィブラフォンという編成で行われた。
 エリック・ドルフィーというと、年季の入ったジャズファンの多くは、「馬のいななき」と誰かが評したバスクラリネットの咆哮、アルトサックスの早くて奇妙なパッセージ、それとは対照的な美しさを湛えるフルート、といったその演奏をまず思い浮かべるに違いない。だが、その作品もまた、それまでのジャズにはない世界を含蓄していた。36才で夭折したので、その足跡を音盤で辿れるのはチコ・ハミルトン・クィンテット以降わずか6年程度に過ぎない。その50年代後半から60年代にかけては、ジャズが多様化し、モダンジャズ、サードストリーム、フリージャズなどが渾然とし、また現代音楽の世界でも前衛が輝いていた時代だ。そのような時代性はドルフィー作品の中に現れている。調性があるものの即興演奏を発展させる自由さが作品の中にあること、特徴的なメロディーライン、跳躍し、ジグザクに動くフレーズは、今の耳で聴いても面白く、様々な音楽的な可能性が内在していたということをこの公演を通して再確認したのである。
 編曲作品の選定にはシュリッペンバッハと高瀬アキ、それぞれの好みが現れていた。シュリッペンバッハは、ジャズの定型フォーマットから逸脱するような<アウト・ゼア>、<アウト・トゥ・ランチ>などを選び、フォルムを考え、高瀬は独特のメロディーラインに着目し、<サムシング・スウィート、サムシング・テンダー>などを選んだように。そのアレンジで、中堅から大ベテランまで、アンサンブルだけではなく、即興演奏にも卓越した能力をもつ個性が揃って演奏したのである。ソロや即興演奏ではそれぞれの持ち味がよく表れていたが、やはり高瀬と『Duet For Dolphy』(Enja)を出しているバスクリネット奏者のルディ・マハールの存在が抜きんでていた。そして、譜面によらず演奏の流れを見据えて絶妙のタイミングで入ってくるハン・ベニンクの存在が愉快だった。ドルフィー作品とその中で展開する自由度の高い即興演奏、それが共存し調和する世界。ジャズの歴史にシュリッペンバッハと高瀬は再び一石を投じたといえる。
 このCDを聴きながら、私はドルフィーのこの言葉を思い出していた。1964年4月、オランダのラジオ・プロデューサー、マイケル・デ・ロイターによるインタビューにおけるドルフィー最後の言葉である。(ちなみに『ラスト・デイト』に収録されている声はこのインタビューの一部だ)
 “Time will tell, time will tell, I am still developing yet”
 半世紀後のベルリンからの回答は、天国のドルフィーにもきっと届いているだろう。(横井一江)

関連リンク
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v35_index.html
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v36_index.html
http://www.jazztokyo.com/interview/interview131.html

横井一江 Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。本誌編集長。

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