昨年生誕100周年のサン・ラ、90歳のご長寿ミュージシャン、マーシャル・アレン、そして今年没後20周年を迎えるドン・チェリー。この3人の音楽家の共通点は、ジャンルや形式にこだわらないコスモポリタニズムと、生命のリズムに根差したオーガニックな世界観であろう。

夏のサン・ラ・アーケストラ来日公演の興奮も冷めやらぬ昨年秋、レコード店で目にした宇宙的曼荼羅模様のジャケットに「MARSHALL ALLEN」の文字を発見し、担当楽器名以外は発音不明なバンドだが、コズミックなオーラを放つ『Live At Sant'Anna Arresi Jazz Festival』と題されたアナログ盤を購入。レコード針を盤面に下ろすと、流暢なイタリア語のアナウンスに導かれて始まったエキゾチックな音響が、徐々に宇宙と交信する電波系即興音楽に変幻し、ラクダの代わりにUFOに乗った遊牧民が飛び交う月の砂漠の幻想に迷い込んだ。2013年8月30日イタリアのジャズ・フェスに於けるこの実況録音盤には「サターン（土星）が呼び、サントアンナ（フェスの名称）が応える」と記され、サン・ラと彼のアーケストラの遺産に捧げられている。

トルコ共和国イスタンブール出身のKonstrukt（コンストラクト）＝構造という名の4人組が奏でるのは「フリー・オーガニック・ミュージック（自由有機音楽）」。

トルコのジャズとして唯一筆者の頭に浮かぶのは、ドン・チェリーのアルバム『ライヴ・イン・アンカラ』だけである。1969年トルコの首都アンカラのアメリカ大使館でのライヴ録音で、バックを務めるのはトルコで最も有名なジャズ・ドラマーのオカイ・テミズをはじめとする3人の地元のミュージシャン。ドンの妻でジャケットのタペストリーを手掛けたモキ・チェリーによる日記風のライナーに、出逢いを求めて欧州各地を旅する当時のドン・チェリー一家のドタバタ道中が綴られている。

それがトルコのジャズを代表するわけではないことは重々承知しているが、ドン・チェリーが撒いたまま地中で眠っていたオーガニック・ミュージック（有機音楽）の種子が、40年後に発芽して咲いた新世代の花がコンストラクトだと言える。その証拠にこの4人組は、マーシャル・アレンをはじめ、エヴァン・パーカー、ペーター・ブロッツマン、ジョー・マクフィー、ウィリアム・パーカーといった「フリー・ミュージック（自由音楽）」歴戦の闘士たちと共演＝交歓してきた。今年は新年早々の1月17日に日本自由音楽の代表格・坂田明をイスタンブールに迎えて交歓したという。

しかし彼らは決してベテラン音楽家の虎の威を借りた狐ではない。マーシャル・アレンはサイド2のみの参加であり、本作でとりわけトリップ度が高いのは、4人だけの演奏を収めたサイド1なのである。エスニックな伝統音楽と研ぎ澄まされた即興演奏を撹拌して新世界へ解放する自由の意思には、サン・ラやドン・チェリーなど先達が砂漠に残した轍を灌漑して、肥沃な土壌に新たな種子を植える宇宙開拓者のパワーが漲っている。

トルコが現在どのような国際状況にあるのかは不勉強のため知らないが、太古から東西文化の交流の地として豊穣な果実を育んできたトルコ、和名：土耳古（SOIL＋EAR＋ANCIENT）の構造（コンストラクト）主義者の奏でるオーガニックな旋律は、全世界の音楽風土への最良の有機肥料に違いない。（剛田武）

剛田 武　Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01