#  1174

『キース・ジャレット・トリオ/ハンブルク‘72』
text by Masanori Tada


ECM/ユニバーサル・ミュージック
UCCE-1148 \2,808(税込)

キース・ジャレット(p, fl, perc, ss)
チャーリー・ヘイデン(b)
ポール・モチアン(ds, perc)

1. レインボウ
2. エヴリシング・ザット・リヴズ・ラメンツ
3. ピース・フォー・オーネット
4. テイク・ミー・バック
5. ライフ、ダンス
6. チェ・ゲバラに捧げる歌

録音年:1972年6月14日
録音場所:ハンブルク、NDRファンクハウス
ミックス:2014年7月12日レインボー・スタジオ、オスロ by ヤン・エリック・コングスハウ&マンフレート・アイヒャー
アルバム・プロデューサー:マンフレート・アイヒャー(ECM2422)

挑戦者キース・ジャレットのミッシング・リンク

NHKザ・プロファイラー「チェ・ゲバラ 世界を変えようとした男」(再放送)を視聴した12月。民衆の中で働いている動画でのゲバラの笑顔。ゲバラというと、フレッド・ヴァン・ホーフ名義のベルリン・ジャズ・フェスのライブ『レクイエム・フォー・チェ・ゲバラ』(入手困難だ、ツタヤの千円コーナーに並んでいるべき作品ではないか、ジャケで手にして耳が拓かれる若者はたくさん出てくるはず!)のサウンドを真っ先に思い出すフリージャズリスナーだったけれど、ECM者としてはチャーリー・ヘイデン作曲の<ソング・フォー・チェ>を溺愛している。録音としてはECM盤ではないけれど、ポルトガルのギター名手カルロス・パレデスとのデュオを挙げたい。

ECMが復刻した『ハンブルク‘72』のトラックに<ソング・フォー・チェ>を目にして、購入。

ジャレット、ヘイデン、モチアンのトリオというと、68年の『サムホエア・ビフォー』(Vortex Records)が人気盤だ。冒頭<マイ・バック・ページ>の詩情に多くのリスナーが人生を狂わされた。このヘイデンのベースを聴いてベーシストを志したという大泉学園インエフのマスターから「今のジャズ・シーンで、ピカイチなのはトーマス・モーガンだ」という話をきいたばかりだ。

68年のジャレットというとチャールス・ロイド楽団に在籍していた頃だ。『サムホエア・ビフォー』では、多彩なメロディー弾きとしての側面がまぶしい。わたしは新しいピアニストです!という初々しい自己主張。

71年のジャレットというとマイルス・デイヴィスのグループで、首をくねらせてファンクを打鍵している。その成果が最初のソロ・ピアノ『フェイシング・ユー』に反響している。『フェイシング・ユー』における美の躍動の正体は、マイルスとの共演にあったことはずいぶん後になって耳がキャッチした。

72年のジャレットというと、デューイ・レッドマン(サックス)とこのトリオの4にんによる通称アメリカン・カルテットを率いての開花の時期だ。このトリオの72年のハンブルク公演(本盤)を、ECMの若き総帥マンフレート・アイヒャーも耳にしていたに違いない。

『ハンブルク‘72』を耳にして、何よりも驚かされるのは、ここでのピアニズムの端々が翌年の『ソロ・コンサート(ローザンヌ/ブレーメン)』に直結していることだ。

ジャレットの『フェイシング・ユー』と『ソロ・コンサート』の断層。スタジオ盤のショートピース集と、長尺のコンサート収録という違いではない。このいずれもジャズ史に燦然と輝く2作の間の跳躍。

『ハンブルク‘72』公演時、ジャレット27さい、ヘイデン34さい、モチアン41さい、意外と年離れてるな。フルート吹いたり(ポスト・ドルフィーでも標榜したかったのだろうか?)、ソプラノ・サックスも吹いてみたり、当然のオーネット・リスペクトを披露したり、と、70年代のジャズ・シーンに果敢に挑戦する新しいピアニストとしての気概を感じさせている。十数年後にピアノ・トリオの革命を果たすスタンダーズの片鱗もここには無いが、60年代フリージャズを止揚する気概に三者は満ちている。三者それぞれに道は拓かれていたことを、2014年に聴く私たちは知っている。

ここに記録されているのは、ジャズ史に対する挑戦者としてのジャレットの勇姿だ。

『フェイシング・ユー』と『ソロ・コンサート』をつなぐミッシング・リンクを耳にした。まずは、それを指摘して本盤のレビューとしたい。この録音に内在する多くの果実はほかにもあるはずだ。

本盤における<ソング・フォー・チェ>。これまで聴いたことのない若々しさに、新しい像が結ばれるようなヴァージョンの演奏となっている。(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌副編集長。

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