コーラス・グループの先駆者的存在「ボスウェル・シスターズ」へのエンターテインメント性たっぷりのトリビュート作

アナット・コーエン(ts,cl)のプライヴェート・レーベルとして、2005年にスタートしたアンジック・レコードは、今やコーエン兄妹の他にも多くのアーティストのアルバムを制作し、ニューヨーク・ジャズの一潮流を形成している。アンジックのロースターの3人娘とも言うべきシンガー達、エイミー・セルヴィニ、ヒラリー・ガードナー、メリッサ・スタイリアナウで結成されたのが、「ドゥチェス」だ。セルヴィニのウェスト・ヴィレッジの55バーでのレジデント・ギグに、ガードナー、スタイリアナウが、それぞれシット・インし、本作のプロデューサー／アレンジャーでセルヴィニの夫君であるオデッド・レヴィ=オリが、いっそのこと3人でやってみたらどうだろうとサジェストしたのがきっかけである。サポートは、セルヴィニのレコーディング・メンバーであるマット・ウィルソン(ds)を中心とした、熟練のプレイヤー達である。「ドゥチェス」が、トリビュートを捧げるのは1930年代に全米のラジオでオンエアされ、一世を風靡したボスウェル・シスターズ。ニューオリンズ出身の3姉妹のコーラス・グループで、クローズ・ハーモニーのコーラス・グループの先駆者的存在である。ボスウェル・シスターズのヒット曲をレヴィ=オリがアレンジした13で、ストレートなトリビュートを捧げた。ペギー・リー(vo)のヒット曲の1や、ガーシュインの知られざる曲12の発掘、3、7など、30〜40年代へのオマージュが並ぶ。4ではガードナー、5ではセルヴィニ、8ではスタイリアナウが、それぞれフィーチャーされている。ヴォーカル・コーラス・グループの原点を、現在の視点で俯瞰したエンターテインメント性たっぷりのアルバムである。新年早々1月4日のニューヨーク・バードランドのギグでは、3人の憧れであるマンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルが＜ケ・セラ・セラ＞で急遽参加。世界のエンターテインメントの中心のブロードウェイでも、大喝采を浴びていた。（常盤武彦）