進化したオメール・アヴィタルのヴィジュアル・イメージを喚起させる大作

90年代後半から続く、イスラエル出身のジャズ・ミュージシャンの快進撃。本作の主人公オメール・アヴィタルは、1992年にニューヨークのジャズ・シーンに登場して以来、ウェスト・ヴィレッジの“スモールス”を拠点に、アナット・コーエン(ts, cl)らと、その中核を担ってきた。2001年からでも9枚のリーダー・アルバム、8枚のコ・リーダー・アルバムをリリースし、その精力的な創作活動は、驚異的でさえある。在米10周年の2002年に、イスラエルに帰国したオメールは、母国で活動を展開すると共に、3年間を中近東、イスラエル、北アフリカの音楽と、西洋音楽や、民族音楽、ダンス・リズム、儀式の音楽の研究に没頭する。満を持してニューヨークにカムバックしたアヴィタルは、ジャズとアラブ、イスラエル、北アフリカの音階とリズムが融合した、独自の音楽を築き始める。2006年に録音されながら、2012年までリリースされなかった前作『Suite of The East』に結実した。それから7年、20年近く行動を共にする盟友アヴィシャイ・コーエン(tp)、ジョエル・フラム(ts)、ダニエル・フリードマン(ds)に、新加入のヨナサン・アヴィシャイ(p)のアメリカ人、イスラエル人混成メンバーで、フランス・ツアー中にスタジオ録音されたのが本作だ。その音世界は、さらなる深みに達し、壮大なサウンド・トラックのようにヴィジュアル・イメージを喚起させる大作だ。複雑ながらしなやかなリズム、エキゾチックな音階とメロディが見事に交錯する。進化したオメール・アヴィタルの唯一無二の音楽は、さらなる地平を目指すだろう。（常盤武彦）