#  1180

『David Virelles/Mbókò - Sacred Music for Piano, Two Basses, Drum Set and Biankoméko Abakuá』
text by Masanori Tada


ECM 2386

David Virelles piano
Thomas Morgan double bass
Robert Hurst double bass
Marcus Gilmore drums
Román Díaz biankoméko, vocals

Wind Rose (Antrogofoko Mokoirén)
The Scribe (Tratado de Mpegó)
Biankoméko
Antillais (A Quintín Bandera)
Aberiñán y Aberisún
Seven, Through The Divination Horn
Stories Waiting To Be Told
Transmission
The Highest One
Èfé (A María Teresa Vera)

Recorded December 2013

これぞ、精神の深淵を覗き込む音楽的体験。

ピアニスト、ダヴィ・ヴィレージェスのECM初リーダー作、かあ。益子さんと入店した表参道の月光茶房で、ベーコンサンドを注文して聴きはじめる。静かな打音、沈黙に立ち現れるリズム、最初の数分で、この演奏の行く手の闇の深さに身動きできなくなってしまう。

「いや、この、何と言うか、謎を追い続けさせるちからというもの、かな・・・」

打楽器がジャズのものではない。ひょっとしてこれはECM流のアメリカン・クラーヴェ・リスペクトなのかえ?なんていう突拍子もない感想も浮かぶ。

7曲目、8曲目がハイライトだ。恐るべし21世紀のスコット・ラファロ、トーマス・モーガン(ベース)の打音。そこまで聴いて、ばばばっと、1曲目からの全体構成スケールを演算し直してみたい衝動に駆られる。

ヴィレージェスのルーツであるアフロ・キューバンの宗教的音楽を基礎付ける打楽器リズムが召喚されている。

益子さんが、ヤコブ・ブロ、ヨン・クリステンセンとのトリオで来日公演していたトーマス・モーガンにこの盤を見せたところ、「ぼくは、彼の音楽がほんとうに好きなんだ」と嬉しそうに小声で言ったという。あの、必要最低限なことしか発言しないモーガンが、だ。

それは、今聴いているぼくたちにも同時に共感している。このエピソードへの反応としてではなく、最初からともにこの録音時に立ち会っているかのように共感している。

クレイグ・テイボーン、菊地雅章、アーロン・パークス、と、ECMアイヒャーは演奏者の強烈な新しい局面をリリースし続けてきたが、第4の衝撃波だ。これまでのジャズ史に波紋を投げかけるマイルストーンの一撃だ。

耳が、謎を追い続ける。もっと音楽を、聴いてほしい。その音は、そのリズムは、その瞬間的な宙吊り状態を、それぞれの奏者は、どう互いに耳をそば立てながら、経験が蓄積された身体から搾り出して音を放っているものなのか、ほんとうの音楽は物理的に鳴り響いている音のその向こう側に謎の生命体のように浮遊している。それを捕まえることができるなんて、おこがましい。聴く者も、精神のすべてを投入して、耳をそば立たせるしかないのだ。

タダマス(四谷音盤茶会)の年間ベストで、この盤を掲げた(http://gekkasha.modalbeats.com/?cid=43767)。マーク・ラパポートさんもたしか選んでいたと思う(CDジャーナル参照)。ニューヨークの現代ジャズ・ミュージシャンたちの投票でもランクインした(http://elintruso.com/2015/01/14/encuesta-2014-musicos-internacionales/)。(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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