#  1181

『新垣隆 吉田隆一/N/Y』
text by Masanori Tada


APOLLO SOUNDS APLS1505

新垣隆(p)
吉田隆一(bs)

01. Vertigo (新垣隆、吉田隆一)
02. 野生の夢〜水見稜に〜 (吉田隆一)
03. 秋刀魚 (新垣隆)
04. 皆勤の徒〜酉島伝法に〜 (吉田隆一)
05. Spellbound (新垣隆、吉田隆一)
06. 怪獣のバラード (東海林修)
07. Stage Fright (新垣隆、吉田隆一)
08. Embraceable You (ジョージ・ガーシュウィン)
09. The Birds (新垣隆、吉田隆一)
10. Sophisticated Lady (デューク・エリントン)
11. Topaz (新垣隆、吉田隆一)
12. 明日ハ晴レカナ、曇リカナ (武満徹)

録音:2014年11月13日 もみじホール城山
プロデュース: 村井康司(音楽評論家)

現代音楽×フリージャズ。まさに、頂上決戦の演奏水準。

聴いたのは70年代フリージャズのプロデューサーMさんと、カーステで。Mさん、おおーバリサク、吉田隆一、サイコーではないか!ピアノは見事な伴奏になっている、と、唸っている。(まさに絵に描いたように見事なバリトン・サックスの演奏、さすがだ、それにしてもこの新垣隆のピアノの解像度の高い対応は、ちょっと現代音楽系のピアニストとしては破格な気がするー)と思いつつ、はやくECM新譜の David Virelies と Vijai Iyer のピアノ盤を聴きたいのであった。

「新垣隆は08年のPoint de Vue Vol.II で聴いているよー(おやじカンタービレ2 http://homepage3.nifty.com/musicircus/rova_n/rova_r12.htm)、鈴木輝昭の次に良かったかなー」「佐村河内はNHKスペシャルも観たし、レコード藝術リーダースチョイス2011では現役作曲家で唯一セレクトされていた(http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20130412)のだし、『交響曲第1番』には感動していたよ(http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20140204)。」


ここで、日記からの転載
『識者からは、映画音楽ふうだ、現代音楽水準では発注書に応じた課題の実施だ、との、上から目線ばかりだが。スコアの出生はそうだとしても、読み込んで練り上げたこの大友直人の指揮は、この東京交響楽団のちからを尽くした演奏は、どうなのだい?スコアの世界から音楽を断ずる思い上がりは不愉快だ。スコアなんてものは音楽のほんの一部であり時に有害でしかない。そんなしたり顔にはだまされないのさ(Flipper's Guitar 調で)。そして、二度とこのような録音は生成しない。この録音は受胎したのだ、奇跡を起こし、受難し、そしてやがて再生するという、クラシック世界を支える核心にあるストーリーと同型な経緯を辿る可能性は、ある。音楽は聴く者が創る。荒川修作せんせいから、ぼくはそう教わっている。』

こないだの「ガキの使い」大晦日SP!「絶対に笑ってはいけない大脱獄」マツコ・デラックス、新垣隆が奇跡の共演、を、観ていました。現代音楽の作曲家なのだから、現代音楽はオーケストラ作品なのであるから(これはわたしの持論)、新垣先生はオーケストラ作品を作るべきなのになあ、と、笑い物にされている先生が痛々しいだけでした。

さて、この『N/Y』に戻ると。新垣隆の解像度が高いピアノというのは、その反応するセンスと置かれる打音の理路整然さと強弱のつけ方の巧みさとも言える。吉田隆一のバリトン・サックスも、技巧の限りを尽くしているところがある。新垣隆のピアノはどの瞬間にも難易度の高い打音を模範解答のように響かせている、クールな鬼のようだ。この二人の身体能力からすれば、当然の見事さとも思える。二人のダンサーが丁々発止と、高度な演技を披露しているだけに聴こえる。ジャズ特有のコクとか雑味が無くて、教材感がハンパない。この演奏には、ぼくの耳を持続させる“謎”がない。演奏の質をたどるも、ヨーロッパにもアメリカにも着地しない。

プロデューサーMさんはぼくに、好みじゃないみたいだね、と指摘していた。好みという問題なのだろうか。ぼくと益子博之がやっているタダマス(四谷音盤茶会)でセレクトする現代ジャズのラインナップには乗らない。若い世代の柳樂光隆さんの Jazz The New Chapter のラインにも乗らないだろう。

むしろ、このカンペキな教材感こそが類を見ない地平か。サングラスかけて、テレビの音楽番組に出演して、このダンサブルな丁々発止をお茶の間に披露する、「あの新垣隆が!」とみんなが注目、充分に満足できるカンペキさ。ジャケのセンスもそんなかんじなのだわ。音楽界の二十面相、ゲーム音楽からジャズも現代音楽もこなす天才、新垣隆、そういう予定調和的な経路でいつかはオーケストラ作品を・・・・。ううむ、そのオーケストラ作品にわたしは期待できるだろうか。うむむ。そこんところがうまく想像できなくなってきたぞ。

“謎”のない音盤をあえておおやけのサイトでレビューしようとしているなんて、どうかしている。不健康なかんじ?

いや、むしろ新垣隆の期待に応える能力について包括的に認識するという鑑賞が要請されているのではないか。

そう考えると、少しだけ落ち着いてくるのであった。(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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