#  1182

『新垣隆 吉田隆一/N/Y』
text by Satoshi Fujiwara


APOLLO SOUNDS APLS1505

新垣隆(p)
吉田隆一(bs)

01. Vertigo (新垣隆、吉田隆一)
02. 野生の夢〜水見稜に〜 (吉田隆一)
03. 秋刀魚 (新垣隆)
04. 皆勤の徒〜酉島伝法に〜 (吉田隆一)
05. Spellbound (新垣隆、吉田隆一)
06. 怪獣のバラード (東海林修)
07. Stage Fright (新垣隆、吉田隆一)
08. Embraceable You (ジョージ・ガーシュウィン)
09. The Birds (新垣隆、吉田隆一)
10. Sophisticated Lady (デューク・エリントン)
11. Topaz (新垣隆、吉田隆一)
12. 明日ハ晴レカナ、曇リカナ (武満徹)

録音:2014年11月13日 もみじホール城山
プロデュース: 村井康司(音楽評論家)

 これは真に聴き応えがある。「例の」事件以降その名が一躍知れ渡ったピアニスト/作曲家の新垣隆と異能のバリトンサックス奏者、吉田隆一のガチンコデュオ勝負である。この両者の共演盤を企画したのは村井康司だ(その経緯は村井自身のライナーに詳しい)。
 全部で12曲、完全即興が5曲(理由は不明ながら全てヒッチコックの映画タイトル名が原題で付いている)、新垣の曲が1曲、吉田の曲が2曲、そしてカバー曲が4曲。完全フリーフォームで両者がフリーキートーン丸出しで暴れまくるトラックあり、チック・コリアの<スペイン>ばりの情感を醸し出すトラックあり、ガーシュインの<Embraceable You>では思いきりゆっくりとこの名曲を料理したり、はたまた吉田がマウスピース越しに歌い叫ぶ曲あり、さらには武満の<明日ハ晴レカナ、曇リカナ>を飛び跳ねるようにプレイするトラックあり、と実に多彩である。吉田と新垣の発する音響の多彩さ、幅広さは驚異的で(ちなみに新垣はここでベヒシュタインのピアノを弾いているという)、それらを見事に捉え切った録音の見事さ・生々しさもまた特筆に価する(吉田のブレス音の臨場感はまるで目前で吹いているかのようだ)。SACDでリリースしてくれればさらに良かったのだがまあ欲は出すまい。ここで展開されている音楽はジャズではあるがいわゆるジャズ的な感じはしないが、と言って新垣の出自であるクラシック(現代音楽)風味という訳でもない。余計なものがそぎ落とされ蒸留された後に残ったのはただただ「即興」としか呼びようのない裸形の音楽なのではないか、という感じがある。その意味で、筆者は佐藤允彦と晩年の富樫雅彦の一連のデュオ作品を思い出しもした。ともあれ、ありきたりの雰囲気と物語に侵されていない、文字通りの「音楽」を求めている人は聴いてみると何か得るものがあるような気がする。続編も期待しておきたい。(藤原聡)

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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NEW1.31 '16

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