# 1183
『板橋文夫FIT!/2nd Step 〜 M・A・B・U・I』
text by Yumi Mochizuki
MIX DYNAMITE RECORD MD-017 定価:2500円(税込) |
板橋文夫(p)
瀬尾高志(b)
竹村一哲(ds)
On track 9 岩見沢特別青果隊:大徳郁子、阿曽沼秀匡、吉田和生、吉村かがり、清水みか、黒川文恵、中村尚子(cho)、渡辺弘光(cho, perc)、小川洋(cho)
1. Brilliant Corners(T. Monk)
2. ザンッザンッ(Zan Zan)(竹村一哲)
3. 風花(kazahana)(瀬尾高志)
4. 祝!(板橋文夫)
5. The Wedding(D. Brand)
6. 2nd Step(板橋文夫)
7. Reincarnation of a Lovebird(C. Mingus)
8. まぶい(MABUI)(板橋文夫)
9. 走る野菜屋さん(Run, Run! Ms.Vegetable)(板橋文夫)
10.ありがとう(板橋文夫)
プロデューサー:板橋文夫
エンジニア:小川洋
マスタリング:小川洋
録音:2014年8月13,14日 北海道岩見沢 MPホール
例によって板橋文夫は最初から最後まで全力疾走、精力的にピアノと格闘し、瀬尾高志(b)、竹村一哲(ds)を鼓舞、若い二人もそれに応えてエキサイトしパワフルな熱演で板橋を挑発する。板橋のたぎる情熱に火をつけるには老練な技術よりも荒削りな若い力がよく似合う。板橋はまだまだ燃え盛るパッションの発露の相手として北国の若い二人を選んだ。
今回は三人のオリジナル曲のほかにモンク、ミンガスそしてダラー・ブランド(現在のアブドゥーラ・イブラヒム)の曲をとりあげている点が興味をそそる。
(1)<Brilliant Corners>はモンクの名演『Brilliant Corners』(Riverside, 1956)と同時にダラー・ブランドの『Duke Ellington presents The Dollar Brand Trio』(Reprise, 1964)が頭をよぎる。モンクはニューヨーク漆黒のブルース、ダラー・ブランドはアフリカン・ブルース、そして板橋文夫は日本のブルース、板橋の唸りには日本の祭りがある。
(5)<The Wedding>はダラー・ブランドが『Live At Montreux』(enja, 1980)で演奏、テーマを飾りけなくストレートに弾く板橋のやさしさが胸にしみる。
(7)<Reincarnation of a Lovebird>は『The Clown』(Atlantic, 1957)。バードに捧げられた曲と伝えられているが板橋は耳に馴染んだミンガスのメロディーからかつて遠い昔の記憶を呼び戻してくれる。板橋のバラードは居心地がよく落ち着ける。
板橋の自作曲ではアルバム・タイトルになっている(6)<2nd Step>での三人のソロの応酬がトリオの充実ぶり、存在感を発揮している。
FIT!は東日本大震災の一か月後、まだ重苦しい空気が漂う中、音楽ができる日常に感謝の念を持ってレコーディングを敢行した。ファースト・アルバム『板橋文夫FIT! New Beginning』(MIX DYNAMITE RECORD)の誕生であり、「板橋文夫FIT!」の出発宣言であった。
それから3年半、「板橋文夫FIT!」は北海道から沖縄まで全国ツアーの敢行、東日本大震災支援CD-R第二弾『あぁー!飯舘村』(MIX DYNAMITE RECORD)の制作・販売、東日本の支援活動などを精力的に行うなかで、昨年の8月、岩見沢で本アルバム『2nd Step 〜 M・A・B・U・I』(MIX DYNAMITE RECORD)はレコーディングされたもので、この2nd StepにはFIT!の第二弾をさすだけでなく、福島の再生を思う板橋の強い気持ちが込められているようにも聴こえる。
もう一つのアルバム・タイトル曲(8)<まぶい>は沖縄・石垣島では生きている人の魂をさすと云う古くからの伝承話に惹かれて作った曲と聞いているが板橋の吹くホイッスル、ピアニカが郷愁を誘う。
(9)<走る野菜屋さん>はまさに地域密着型のご当地ソングで、このレコーディングを支えてくれた岩見沢の関係者、エンジニア等が即席のコーラス隊として参加し<今日も走る明日も走る野菜屋さん、毎日毎日走るよー…大地の恵み、美味しい野菜…>と一斉に黄色い声をあげる。掛け声はバラバラだがしっかりと連帯感が伝わってくる。
板橋文夫のピアノはどんなに音数が多く、激しく弾いてもうるさくない。板橋の音に向き合う一本気の真剣さが伝わってくるからである。このFIT!2弾『2nd Step〜 M・A・B・U・I』(MIX DYNAMITE RECORD)ではまるで岩見沢に居合わせたかのような幸せな気分に包まれる。(望月由美)
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
追悼特集
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
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#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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