# 1185
『Vijay Iyer Trio/Break Stuff』
text by Masanori Tada
ピアノ・トリオ最前線、横綱相撲。
「2009年のACTデビュー作『Historicity』がグラミー賞にノミネートされ、The New York Times、Downbeat、Village Voiceといったアメリカの一般紙/専門誌で軒並み同年の最優秀ジャズ・アルバム賞を総ナメする高い評価を受けるという衝撃のデビュー」「NYジャズシーンにてRobert Glasperと双璧をなす大注目ピアニストVijay IyerのECM2枚目1年ぶりとなる本作」
ガツンといい。それでいて理知だ。新世紀型ジャズ・ドラマー、マーカス・ギルモアの強靭なジタバタしすぎる系の叩きを泳がせて手綱を緩め、このトリオは気心知れたものだが、舞台をECMにして、ヴィジェイ・アイヤーはじつに冷徹に、おのれの放つ音に耳をそばだてて、歓んでいるようにもオレには感じられる。
3月13日金曜日、首都高をラジオをつけて走りはじめると、時間的にはベストオブクラシック、このピアノは・・・、ヴィルサラーゼのほかにもヴィルサラーゼは居るものなのかよー、と、聴いて、会場の拍手の音、2014年2月3日すみだトリフォニーホールでのエリソ・ヴィルサラーゼさんのリサイタル・・・、な、なんだ、おれが昨年聴いたやつ(http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20140203)だ。Jazz Tokyoでは佐伯ふみさんがレポートしている(http://www.jazztokyo.com/live_report/report645.html)。これが年間ベストでもいいよなあ、Jazz Tokyoの年間ベスト・コンサート(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2014b/live2014b.html)をチェックする。丘山さんはシフを選んでいる。うん、シフを聴いた年はシフになるだろう。おれは昨年、野島稔を聴いて、それがベストだな、野島稔を聴いて以降はクラシックのコンサートに行く必要がしばらく感じないでいるくらいだ。
ヴィルサラーゼのこの打鍵のありようは、誇り高きロシア・ピアニズム、と、称される。
ヴィジェイ・アイヤーの打鍵のありようも、また、何か、称されるもの、が、ある。
それを何かと名指せたら苦労しない・・・。これみよがしにおのれのルーツや血筋を誇示する演奏ではない。ジャズに根差した格闘をヴィジェイはやっている。・・・格闘という語彙は適当だろうか、ううむ。
ヴィジェイについては、Jazz Tokyoで望月由美さんが2枚レヴューしている。
『Adrian Justus Violin Recita/la Campanella』
http://www.jazztokyo.com/five/five896.html
『ヴィジェイ・アイヤー/デビュー』
http://www.jazztokyo.com/five/five728.html
ECMアイヒャーが、他レーベルで傑作をものにしているピアノ・トリオをそのままの編成で録音することは少ない。録音するときは、解体と再構成を施してアイヒャーの美学を注入するような、冷酷な料理人のような手つきで作品を仕上げ、聴く者を瞠目させている。
ヴィジェイのピアニズムの引き出しは広い。メルドーやジャレットや上原への批評になっているようにも聴いてしまう、のは、おれの耳のセコさか。
芸大4年の次男恋一郎23が中華屋の帰りに本作を聴いて、「あー、なんかこれ、メリアーナ以降のジャズ?つうの?」と言い出す。「ほええ、ヴィジェイ・アイヤー・トリオだが。」そうか、そう聴こえるフェイズもあるんかな。岡目八目と言うが、言われてみると、そういうバイアスで受信することも可能だ。
メリアーナ=ブラッド・メルドー+マーク・ジュリアナ、来日公演をしている。
とっちらかったレヴューになっている。
ECMがこのところニューヨークのジャズシーンからピックアップしているピアニストは世界ランキングのトップ5と言っていいのではないか。クレイグ・テイボーン、菊地雅章、アーロン・パークス、ダヴィ・ヴィレージェス、そしてこのヴィジェイ・アイヤー。それぞれに全く異なる角度から、現代ジャズを掘削している。それはまったくのセンセーションと言っていいと思うし、巻頭カラーグラビアで5にんが並べるジャーナリズムが要請される。
ヴィジェイ・アイヤー。10年前にマーク・ラパポート氏がマガジンで年間ベストに掲げて多くのリスナーの意識を拓いた『何語で?』は、まず聴かれるべきだろう。そして、おれが「スフィアン・スティーヴンスだ」と絶叫した、弦楽とポップとロックとクラシックが溶解するような静かな傑作『ミューテーションズ』が正当に理解されることを切望する。
『Vijay Iyer/Mutations』
http://www.jazztokyo.com/five/five1077.html
そして、ECMアイヒャーは、ヴィジェイ・アイヤーの作曲能力を引き出した映像作品『Radhe Radhe: Rites of Holi』までもリリースしている。
これを未視聴のままでいるのがちょっと恥ずかしい。あとは任せた。(多田雅範)
多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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