#  1191

『Meeco/Souvenirs of Love』
text by Kayo Fushiya


Double Moon Records DMCHR 71149

Vocalists;
Jean Baylor <track3, 4, 5, 7>
Casey Benjamin <track8>
Talib Kweli <track4>
Aaron Marcellus <track3, 6>
Mary Stallings <track1>
Yahzarah <track2, 6, 9, 10>

Musicians;
Hubert Laws (alto flute) <track8, 11>
Eddie Henderson (tp) <track5>
Wallace Roney (tp) <track4>
Vincent Herring (alto& soprano sax) <track1, 4, 10>
Kirk Whalum (tenor.sax) <track3, 7>
Shedrick Mitchell (hammond, fender rhodes, piano) <track2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10>
Eric Reed (p) <track1, 5, 8, 11>
Stefon Harris (vibraphone) <track7>
Lionel Roueke (e.guitar & harmonizer) <track8>
John Scofield (e.guitar) <track2, 9>
Bryan Smith (guitar) <track2, 6>
Jaques Morelenbaum (cello) <track10>
Richard Bona (e.bass) <track2, 9>
David “DJ”Ginyard (e.bass) <track3, 6>
Dezron Douglas (upright bass) <track4, 10>
Buster Williams (upright bass) <track1, 5, 7, 8>
Marcus Baylor (drums) <track3>
Victor Lewis (drums) <track2, 4, 7, 8, 9, 10>
DJ Stylewarz (scratches &fx) <track4>
Brad Allen Williams (e.guitar) <track6>
Jermaine Parrish (drums) <track6>
Alan Plummer (percussion) <track6>
Rolo Rodriguez (drums) <track8>

1. Souvenir of Love (04:07)
2. Make My Dreams Come True (05:31)
3. Every Day (03:20)
4. Times Have Changed (03:51)
5. If Only I Knew (04:27)
6. Can’t Get You Out Of My Mind (05:33)
7. Paris At Night (05:10)
8. Your Eyes (05:08)
9. Words Of Love (05:57)
10. For You (04:58)
11. Farewell (04:20)

Produced by MEECO
Mixed by MEECO & Bryan Smith
Recorded @ Systems Two Recording Studios & Be A Light Studio, NY 2013-14
Mastered by Hans-Philipp Graf @ HP Mastering Hamburg

プロ根性のてらいのない集結---JazzとR&BによるMEECOのラヴストーリー

緻密なバランス、クールかつ熱気を併せ持つ素敵なアルバムが届いた。クレジットを一瞥するなりやんごとないビッグネームがならぶ。ジャズ界の生きるレジェンドともいうべきインストゥルメンタル陣、R&Bを中心とした実力派のヴォーカル陣---この二陣営がくんずほぐれつ、分離したり融合したりの体温のせめぎ合いでアルバム全体のフィーリングを練りあげている。目を惹くところではエリカ・バドゥのバッキング・ヴォーカルとしても名高いYAHZARAH、ジャコ・パストリアヌスの再来として近年その界隈では当代一といわれるリチャード・ボナ、ジョン・スコフィールド、バスター・ウィリアムス、ジャキス・モレレンバウム、名ドラマーのヴィクター・ルイス、ラッパーTalib Kweliなどがあげられるが、これだけのメンツを一声で集結させているのが、若干30代後半のドイツ人プロデューサー兼コンポーザーのMEECOことMichael Meier(ミヒャエル・マイヤー)というから驚きである(不勉強ながら筆者は今まで存じあげなかった)。だがこの『Souvenir of Love』というアルバムを聴き、なぜこのMEECOがミュージシャンたちから絶対の信頼と素直な感嘆を寄せられているのかが分かるような気がした。アルバムのコンセプトはタイトルからも分かるように明快そのもの。ふと目にとまった書簡の束に端を発する追憶の物語であり、作者自身の内的な時空の旅だ。ジャケットは機上からの窓外風景、ブックレットもエアチケットのイメージからはじまって端正にデザインされ、セピア色の葉書に歌詞が順ぐりに手書きされている仕様。一歩間違えば相当陳腐になりかねないスタイルではあるが、メアリー・スターリングスの香気ただようポエム・リーディングがスタートするや否や(表題曲)、完全に聴き手はそのいぶし銀の世界へと連れ込まれてしまう。冒頭で述べたとおり、単なる激情やビート任せではなく、酸いも甘いも噛み分けた熟練ジャズメンたちがR&Bをやっている---その抑制が逆にテンションを底上げしているのである。MEECOのアレンジも手が込んでおり、ヴォーカルの肉声に匹敵させるように必ず双頭として目立つプレーヤーを配する。例えば、この一曲だけでも買いともいえる2. Make My Dream Come TrueのYAHZARAH+スコフィールド(ギター)、4. Times Have ChangedでのTalib Kweli+Wallace Roney(トランペット)、5. If Only I KnewにおけるJean Baylor+Eric Reed(ピアノ)、同じく7. Paris At NightでのBaylor+Stefon Harris(ヴィブラフォン)、など。ほとんど肉声デュオにも聴こえるような楽器と声との歩み寄り、あるいは乖離した併走、豊穣なサビ、聴かせどころは一ミリも外さない。遠近感秀でるアンサンブルは音の先にある空気感、「うた」の根底にあるフィーリングをじっくりとあぶり出し、一曲一曲を確実に「シーン」として認識させる。ヴォーカル陣のなかではYAHZARAHの存在が白眉。広い声域と多彩な声音、ウェットながら媚のないアンビヴァレントな魅力をもつそのヴォーカルなしにはアルバムの魅力も半減だろう。アルバム全体に第一線を張るミュージシャンたちならではの矜持と余裕がにじむが、それらを万人に感情移入しやすいラヴストーリーに仕立てあげるMEECOの手腕はなかなかのもの。一流の音がストレートにパッケージされている。これは基本的なようでいて得難い。(伏谷佳代)

【関連リンク】
http://www.meecomusic.com
http://www.doublemoon.de

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。 JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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