#  1192

『Gebhard Ullmann Basement Research/Hat and Shoes』
text by Kayo Fushiya


between the lines BTLCHR 71238

Gebhard Ullmann(tenor sax, bass clarinet)
Steve Swell(trombone)
Julian Argüelles(baritone sax)
Pascal Niggenkemper(double bass)
Gerald Cleaver(drums)

1. Trindad Walk (6:18)
2. Wo bitte geht’s zu den Hackeschen Höffen? (8:21)
3. Flutist with Hat and Shoes (7:38)
4. Don’t Touch My Music (7:53)
5. Five (9:00)
6. Blue Trees and Related Objects (5:50)
7. Gulf of Berlin (7:04)
Total time 52:21

All compositions by Gebhard Ullmann
Produced by Gebhard Ullmann and Volker Dueck

Recorded by Walter Quintus on 24th February, 2013 at Kreisschule Mutschellen in Berikon, Switzerland

ウルマンによるリーダー第50作目---ヴェテラン勢 充実の断層図

こういう脂の乗り切ったリード奏者がひとりいるかいないかで、その国の音楽シーンの厚みが大分異なった状況を呈してくるのではないか。ドイツを中心に活躍するGebhard Ulmann(ゲッブハルト・ウルマン)はまさにそんな存在であり、本作は彼の代表的なプロジェクトである”Basement Research”名義の新作。ハーブ・ゲラーやデイヴ・リーブマンの流れを汲むウルマンだが、はやくからベルリンとニューヨークというふたつの都市を股にかけ、つねに複眼的な視点でそのキャリアを築いてきた。ウルマンのプロジェクトのなかでとりわけ目を惹くもののひとつが1991年に結成された“Ta Lam”(現在は解散)であり、木管楽器10人とハンス・ハッスラーによるアコーディオンという変則編成。もうひとつがこの”Basement Research”である。当初はEllery Eskelinなどもメンバーに擁するクァルテット編成であったが、幾度かのメンバー・チェンジを経て現在のクインテット編成に落ち着いた。いわずと知れた世界の音楽二大都市から旬のミュージシャンを起用し、前衛的でありながらも「音楽すること」のシンプルな歓びを前面に打ち出したウルマンのパフォーマンスの数々は、いずれも安定した高水準を誇る。本作『Hat and Shoes』は彼のリーダー作としては50作目に当たり、全編をとおしてのインプロヴィゼーションとコンポジションの絶妙な揺れのバランスはさすがに手練れの域。壮大なスケールのもとに構築される細部の充実がめざましく、良い意味でも悪い意味でも期待を裏切られることはない。逆にユーモラスなコンポジションが、ともすれば整いすぎるすぐれた技巧の低音4管を適度に散らしているともいえよう。思えばベルリン在住のクラリネット3管(ウルマン、ミヒャエル・ティーケ、ユルゲン・クプフェ)による”Clarinet Trio”を聴いた時でも感じたことだが、シリアスとユーモア、奔放さと緻密さなど一見アンビヴァレンツな要素がうまく調和するのと同様に、得難いのは成熟した個々のプレーヤーたちの輪郭がみごとなチームプレーとしても発露している点に尽きる(あまりにも自然なので気がつかないが)。一聴した時点から印象にのこるのがPascal Niggenkemper(パスカル・ニッゲンケンパー)のベースである。メンバーのなかでは最年少であろうが、アルバム全体のキーとなる存在だ。ロックやファンクのイディオムを当然のように消化した、弾力性と粘着力に秀でたフィンガー・ピッキングは聴き応え充分。ヴェテラン勢を蹉跌のように牽引してゆく大局的な磁力に要注目。(伏谷佳代)

【関連リンク】
www.gebhard-ullmann.com/
http://www.steveswell.com/
http://www.julianarguelles.com/
http://www.pascalniggenkemper.com/home.html

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。 JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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