高い精度のテンションが持続する若手ピアニストの意欲作

同編成での前作のレヴューを書いてから約２年が過ぎたが、新作のタイトルは“Capturing this Moment”（この機を掴め）。本人によるブックレットは極めて言葉少なだが、「カメラマンがシャッターチャンスを捉えるように」音楽生成の磁場を捉え記したい、と述べている。作曲家としてのアプローチとインプロヴァイザーとしての可能性---その同時追求はミュージシャンとしてごく普通のことのようにおもわれるが、あえてアルバムのタイトルに賭してくるあたりに気骨を感じる。前作の『Hidden Meaning』ではメロディラインの美しさや手堅いアンサンブルなど、正統派ヨーロピアン・ジャズならではのコンサヴァティヴな魅力が持ち味となっていたが、本作ではそこからぐっと掘り下げ、ピアノ固有の特性への追求と音への深い没入、集中力が顕著だ。ピアノが削ぎ落としたシンプルさを増したぶん、他パートでは微に入り細に入りの多彩なアプローチが目立つ。なかでもドラムのヨナス・ブルクヴィンケルが白眉。若手ながら50タイトル以上のアルバムに参加している売れっ子だけあり、鋭利なタイム感覚と卓越したテクニックのみならず、自在に空間を増幅させる想像力が余韻たっぷり。グループ内随一のメロディストといえよう。前述したように、ミシェルのピアノは新局面。表題曲の3. Capturing This Momentや11. Distant Constellationsなどアップテンポな曲でのグルーヴに手応えを感じる。欲をいえば管との絡みに若干の変化が加われば、このグループにまた違った局面が生まれるかもしれない。（伏谷佳代）

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Five by Five #986『Michel Reis／Hidden Meaning』text by 伏谷佳代
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伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳／美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。 JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。