#  1196

『辛島文雄ピアノソロ/エブリシング・アイ・ラヴ』
text by Yumi Mochizuki


ピットインレーベル PILM-0004
価格2,500円+消費税

辛島文雄(p)

1. Everything I Love(C.Porter)
2. The Girl From Ipanema(A.C.Jobim)
3. Solitaire(K.Guion)
4. Brilliant Darkness(辛島文雄)
5. My Foolish Heart(V.Young)
6. Recorda Me(J.Henderson)
7. Late Autumn(辛島文雄)
8. How My Heart Sings(E.Zindars)
9. Malaika(Traditional)
10. Toys(H.Hancock)
11. What Are You Doing the Rest of Your Life(M.Legrand)
12. I Thought About You(J.V.Heusen)

プロデューサー:辛島文雄、品川之朗(ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武(ピットインミュージック)
エンジニア:菊地昭紀(ピットインミュージック)
録音:2014年7月3日、4日 沖縄市民小劇場 あしびな〜

 辛島文雄のピアニズムの極致が理想的なソロ・ピアノ集と云うかたちに収められている

 最初の一音からみずみずしいタッチが広がり部屋一面に爽やかな風が立ちのぼる。いつもより少し音量を上げると音の端々から格調の高い辛島文雄の風格が浮かび上がってくる。
 その格調の高い力強いタッチの中から程よい緊張感とナイーブな感性が伝わってくる。ここにはついに到達した辛島文雄のピアニズムの極致が理想的なソロ・ピアノ集と云うかたちに収められている。

 昨年の7月28日、新宿ピットインでの辛島文雄トリオの『A TIME FOR LOVE』(ピットインレーベル)のCD発売記念ライブの休憩時間に辛島ご本人から、この間、沖縄でソロ録ってきたの、楽しみにしていて!と伺っていたがそれが本作のことだったのである。

 演奏曲は辛島のオリジナル曲(4)<Brilliant Darkness>と(7)<Late Autumn>以外はみな聴き知ったスタンダードが並んでいる。おそらくは辛島が今一番しっくりくる曲を思う存分弾いたものと思う。
 この中には(1)<Everything I Love>、(5)<My Foolish Heart>、(8)<How My Heart Sings>、(11)<What Are You Doing the Rest of Your Life>と4曲もビル・エヴァンス(p)の愛奏曲が収められている。
 以前、某放送局の番組の収録に立ち会わせていただいた折り、筆者が毎晩お休みミュージックにエヴァンスの『ALONE』(Verve)をかけているという話をしたところ、辛島はすらすらとアローンの収録曲の曲名を頭から全曲話してくれてびっくりしたことがある。実は辛島は学生時代、徹底的にエヴァンスを探求したのだそうだ。
 本作はこの前のソロ・アルバム『ムーン・リヴァー』(Videoarts)から7年という時間をかけているがエヴァンスもアローンから次の『ALONE(again)』(Fantasy)までに7年の齢を経ている、偶然以上の結びつきを感じる。
 しかしエヴァンスの愛奏曲といっても辛島は過去のエヴァンスの名演に引きずられることなく、いま現在の辛島の気持ちで演奏していて辛島ならではの熱気のこもったアクティブな展開からバラードとしての優しい情感まで瑞々しいタッチで弾ききっているので聴きこむ程にずしんと胸を打つ。

 エヴァンス曲以外でも(2)<The Girl From Ipanema>では導入部のカデンツアでクラシックの小品を聴いているような清澄なタッチでくっきりと清新なイパネマを創りあげている、ピアノの響きが美しい。
 また、トニー・ベネット(vo)のヒット曲(3)<ソリティア>でも原曲のイメージを大切にしながらも溌剌とした辛島の今の心境を語っているようで意味深い。(12)<I Thought About You>もシナトラやベネットの愛唱曲であるがこうした古い唄ものを全く新しい現代曲に蘇らせていて新鮮に耳に響く。ハード・バップの定番曲ジョー・ヘンダーソン(ts)の(6)<Recorda Me>もケニー・ドーハムの哀愁の香りは残しながらも太陽がさんさんと降りそそぐ南国のボサノバへと変えている。日本では渡辺貞夫(as)の演奏で大ヒットした(9)<Malaika>もFM東京「マイ・デア・ライフ」の面影をしのばせる。
 辛島文雄の新作『エブリシング・アイ・ラヴ/辛島文雄ピアノソロ』(ピットインレーベル)にはエヴァンスからベネット、ジョー・ヘン、ハンコック、マイルス等々永年ジャズにかかわって知った喜びを自らのものにして鍵盤から導き出したもので辛島文雄の人生の重み、人格が詰まっている。
 そして、なによりも一音一音に沖縄の空気の中でピアノを弾く喜びが音の端々から活き活きと伝わってくるのがうれしい。(望月由美)

望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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