# 1197
『Steve Turre/Spiritman』
text & photos by Takehiko Tokiwa
Smoke Sessions Records SSR-1502 | |
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Steve Turre (tb, shells)
Bruce Williams (as,ss)
Xavier Davis (p)
Gerald Cannon (b)
Willie Jones ? (ds)
Hembo Cornel (per, 9)
1. Bu
2. Lover Man
3. Funky Thing
4. Trayvon's Blues
5. It's Too Late Now
6. With A Song In My Heart
7. 's Wonderful
8. Peace
9. Nangadef
10. Spiritman - All Blues
Recorded & Mastered by Roman Klun at Sear Sound, New York City on June 1, 2014
Produced by Paul Stache
スモーク・セッションズ・レコードの第11作目には、やはりジャズ・クラブ”SMOKE”の常連出演者のスティーヴ・トゥーレ(tb)が登場し、前作のエディ・ヘンダーソン(tp)同様、クラブのライヴ録音ではなく、シェア・サウンドでのスタジオ録音になった。トゥーレは、近年ホラ貝を使ったコンセプチュアルな作品が多いが、本作では原点に立ち返り、ブルース、スウィング、バラードをプレイしている。オリジナルと、スタンダードがちょうど半分という構成で、カジュアルに愉しめる作品となった。メンバーは進境著しい若手のブルース・ウィリアムス(as,ss)、トゥーレの音楽を深く理解し、どのような方向へもサポートするエクゼヴィア・デイヴィス(p)、長年行動を共にし深い信頼を寄せるジェラルド・ケネン(b)、ウィリー・ジョーンズ?世(ds)だ。アフリカン/ラテン・チューンの9に、ゲストでチェムボ・コーニル(per)がコンガを叩く。
オープニングを飾るオリジナル曲"Bu"は、ニューヨークへ導いてくれた恩師アート・ブレイキー(ds)のモスレム・ネームBuhainaに由来する。1973年に共演していたウディ・ショウ(tp)の紹介で、サンフランシスコのキーストン・コーナーで演奏していたアート・ブレイキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズにシットイン、ブレイキーはトゥーレの才能を見抜き、その週の終わりにはニューヨークに連れて帰った。ジャズの世界への大きな一歩を踏み出した瞬間だそうだ。60年代のメッセンジャーズを彷彿させる、モーダルとファンキーが同居した曲だ。”Funky Thing"は人気音楽番組の"Saturday Night Live”に書いたJB's調のファンク・チューンだ。1972年にはレイ・チャールス(vo,p,kb)のグループでツアー経験のあるトゥーレは、ファンクもジャズと同じくルーツはブルースと語る。フロリダ州でおきたアフリカ系少年射殺事件の犠牲者であるトレイヴォン・マーティンに捧げた”Trayvon's Blues”は、哀しみと激しさが同居するゴスペル・フィールのブルースだ。1960年代にチャールス・ミンガス(b)が描いた世界は、50年の時を経ても、いまだ解決していない。バラードの”It's Too Late Now"と”Peace"は、トゥーレの歌心を見事に表現している。後者は、2014年に逝去し共演で多くのことを学んだホレス・シルヴァー(p)へのレクイエムでもある。エンディングを飾るタイトル曲は、音域の違うホラ貝を駆使したオリジナル "Spiritman"をイントロに、マイルス・デイヴィス(tp)の”All Blues"に繋がるメドレーだ。”Spiritman"は、昨年大阪で開催されたインターナショナル・ジャズ・デイ で、トゥーレがソロのホラ貝で演奏したところ、和太鼓チームが参加し予想を遙かに超えるグルーヴを生み出した。そのときの衝撃がこの曲を最終完成形として”All Blues"とのメドレーになった。ホラ貝と、サックスのアンサンブルは、やはりトゥーレが若き日に薫陶を受けたラッサーン・ローランド・カーク(sax)の複数のホーン・プレイを彷彿させる。トゥーレはライナーノーツで語った。「スピリットがなければ、音楽は音符の羅列でしかない」。現在のスティーヴ・トゥーレに大きな影響を与えた先達へのオマージュとともに、ジャズの本質である、ブルースとスウィングを深く掘り下げた作品となった。(常盤武彦)
関連リンク
Steve Turre http://steveturre.com
Smoke Sessions Records http://smokesessionsrecords.com
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スティーヴ・トゥーレ・クインテット | スティーヴ・トゥーレ | ブルース・ウィリアムス |
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エクゼヴィア・デイヴィス | ジェラルド・ケネン | ウィリー・ジョーンズ?世 |
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スティーヴ・トゥーレ |
写真撮影 2015年3月15日@スモーク、NYC
常盤武彦 Takehiko Tokiwa
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。
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