#  1203

『Tomas Fujiwara & The Hook Up/After All Is Said』
text by Takeshi Goda and Masanori Tada


482 Music 482-1089

Michael Formanek (b)
Mary Halvorson (g)
Brian Settles (ts, fl)
Jonathan Finlayson (tp)
Tomas Fujiwara (ds)

1. Lastly
2. The Comb
3. For Tom and Gerald
4. Boaster's Roast
5. Solar Wind
6. The Hook Up
7. When

All compositions by Tomas Fujiwara
Recorded February 16, 2014 at Systems Two, Brooklyn, NY
Engineered, Mixed, and Mastered by Jon Rosenberg

Produced by Tomas Fujiwara
Executive Producer: Michael Lintner
Cover Photo: Melanie Minichino

別項で書いたドラム論とも関連するが、集団(即興)演奏の要は、やはりドラマーなのではなかろうか。極論をいえば、他の楽器、例えばギターやサックス、キーボードは個人的にテクニックを磨き、型破りなスタイルや独自の演奏哲学を提示することで、集団の中で目立つことは可能だが、他者を巻き込み、全員を一つの方向に導くことが出来るかどうかは疑問である。逆に自己主張の強いソリストばかりの集団は、侃々諤々の論争や利害衝突に明け暮れるばかりで、共同製作することすら危うい烏合の衆になりかねない。

しかし、そんな集団を後方からじっと俯瞰するドラマーなら、スネアをBANG!と叩くだけで、その場の空気を一変させることが出来る。音量だけではなく、どっしりとした存在感でメンバー全員の心を支えることは、ドラマーならではの資質と言えるだろう。つまりプレイング・マネージャーとして、リーダーとプレイヤー両方の才能を備えることがドラマーの本懐なのである。

ボストン生まれのトマス・フジワラは7歳の頃にバディ・リッチ&マックス・ローチの『リッチVSローチ/2大ドラマーの対決』を聴いてドラマーを志したという。スポーツ好きの少年にとって、誰よりも激しく大音量でドラムを叩くことは、バスケットボールやフットボールと同じようにヒーロー願望を掻き立てられたのだろう。

しかしトマス少年は成長し、試合を重ねることでチームワークの大切さを学び、目立つだけがドラマーではないことを知った。17歳でニューヨークに移り住み、バーやレストランの箱バンで生計を立てながら、自分の音楽を追求した。2008年にメアリー・ハルヴァーソン(g)、ブライアン・セトルズ(sax)、ジョナサン・フィンレイソン(tp)といった即興音楽の猛者を集めて結成したのがザ・フック・アップ。「接続」を意味するバンド名通り、多分にスタンドプレイヤー的資質を持つ曲者揃いのメンバーを、トマスのドラムで接続し交歓させることで、トマスの手になる楽曲に命を吹き込み、ソロでは成しえないバンドならではのケミストリーを生み出し、新たな音楽の地平を描き出している。

トマスの役割は、メンバーの自由な精神を最大限に尊重しつつ、要所を締めて演奏の行方をコントロールすること。バスケットの試合に例えれば、メンバーに好き勝手にドリブルやパスを指示しつつ、最終ゴールは自分が決める。少年時代のドラマーの夢に近づいている自信のほどは、CDジャケットの堂々としたポートレートに明らかだ。

「Hook Up」にはスラングで「キスをする」「いちゃいちゃする」「愛を交わす」という意味があるという。そう思って5人の自由奔放な演奏を聴きなおすと、恋愛ゲームのような甘い香りも嗅ぎ取れる。汲めども尽きぬインスピレーションの泉のような音楽である。(剛田武)

【関連記事】
Jazz Right Now #02
http://www.jazztokyo.com/column/jazzrightnow/002.html

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

たまらん。メアリーの暴走。

現代ジャズの発火点を探るリスナーズイベント「タダマス(益子博之×多田雅範=四谷音盤茶会)」で年間ベストの10枚に選出したトマス・フジワラのグループ。
http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/2012_10/tx_7.htm

このつんのめるリズムに乗ってる乗りかたが、ユルいようでやたら強いとか、思わせぶり無しでパッパッと先を急いでいる性急な感じがクセになったりするのでございます。おそらく、コンポジションで手綱をぐっぐっと引いている密度がキモなのでしょう。

聴きどころは、サイドメンにまわった時にこそ暴れまわる変態ギターのメアリー・ハルヴァーソンの、ギュイーン、キョワー、ニョーオオンと放出しまくる、そこでそうコケるんか!と幸福になるあまたの瞬間にあります。

これをフックにして、他のアンサンブルの聴こえの位相がズラされているわけです。

ジャズ界のメインストリームでも、新しい感覚を持ったドラマーがどんどん出てきている状況にありますが、トーマス・フジワラはコンポーザーとしての資質を軸に新しいタイプのダンサブルの系譜を打ちたてているところが爽快です。

おすすめは、フルートの漂いが不穏を帯びてゆくトラック1と、日本の祭囃子を奇妙に展開させてゆくようなトラック5。

トマス・フジワラは奥の深いドラマー/コンポーザーで、現代感覚ジャズではジョン・ホーレンベックと並び称される才能と認識されるべきであります。(多田雅範)

関連リンク;
Vision Festival 18 Reports by ブルース・リー・ギャランター(DMG)
http://www.jazztokyo.com/live_report/report559.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report566.html

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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