#  1207

『All Star Jam Session THE J・MASTERS in Concert』
text by Yumi Mochizuki


ピットインレーベル J シリーズ
PILJ-0008

峰 厚介 (ts)
向井滋春 (tb)
原 朋直 (tp)
辛島文雄 (p)
鈴木良雄 (b)
村上 寛 (ds)

1.ストレート、ノー・チェイサー (T.Monk)
2.リカード・ボサノヴァ(D.Ferreira)
3.ノルウェーの森(J .Lennon/P.McCartney)
4.ソニー・ボーイ(B.G. De Sylva/L.Brown、R.Henderson、A.Jolson )
5.ファイヴ・スポット・アフターダーク(B.Golson)
6.ラウンド・アバウト・ミッドナイト(T.Monk)
7.モーメンツ・ノーティス(J.Coltrane)

プロデュース:ザ・ジェイ・マスターズ
共同プロデュース:品川之朗(ピットインミュージック)
エンジニア:溝口 壽(パワーシティー)
録音:2014年12月21日,兵庫県立芸術文化センターにてライヴ録音

 新宿ピットインが今年で創立50周年を迎え、様々な記念イヴェントを打ち出している。その流れの中で新宿ピットイン開業50周年の歴史を刻んできたピアニスト、辛島文雄(p)の『エブリシング・アイ・ラヴ/辛島文雄ピアノソロ』、『ア・タイム・フォー・ラヴ/辛島文雄トリオ』そして森山威男、板橋文夫の『ストレイトエッジ/森山・板橋クインテット』と次々とリリースし、またメモリアル・コンサートの準備を進めている。
 『All Star Jam Session THE J・MASTERS in Concert』もその一枚。ピットインの歴史の様々なステージにかかわってきた名手6人をピックアップして兵庫県立芸術文化センターのホールで行われたHyogoクリスマス・ジャズ・フェスティバルでのコンサート形式のジャム・セッションをライヴ・レコーディングしたものである。

 火事と喧嘩は江戸の華、ジャム・セッションはジャズの華として昔から親しまれてきた演奏スタイルで、とりわけバップが始まったころの1940年代にはジャズ・クラブ「ミントンズ・プレイハウス」にチャーリー・クリスチャン(g)やセロニアス・モンク(p)など気鋭のミュージシャンたちが三々五々仕事を終えて集まりアフター・アワーズを楽しみ、また研鑽の場にしたという。こうしたライヴ・ハウスでのミュージシャン自身が楽しむために始めたアフター・アワーズをジーン・ノーマンが“JUST JAZZ”Concertと銘打ってジャズを大きなオーディトリアムに持ち込み、更にノーマン・グランツがJ.A.T.P.(Jazz At The Philharmonic)を興行的に成功させたもので、大きなホールのステージの上で再現させたところが大きな魅力である。
 『All Star Jam Session THE J・MASTERS in Concert』と銘打った本アルバムもJ.A.T.P.の再来のような楽しみに満ちている。

 ノーマン・グランツの場合はJ.A.T.P.のステージを丸ごと録音しておき、タイミングを見て随時レコード化していたようであるが、本アルバムはあらかじめピットインレーベルからCDとして発表することを前提にプログラムされたもので、単なるジャム・セッションの記録ではなく周到なアイデアが練られてのステージとなっている。
 「THE J・MASTERS」と云うグループはライナー・ノーツによるとオール・スターの集まりなのでとくにリーダーは決めていないそうで、毎回持ち回りで選曲やアレンジ、取りまとめ役を決めていて、今回は辛島文雄がその任にあたっているという。
 モンクやコルトレーン、ゴルソンといったジャズ・ジャイアンツの名曲からボサノヴァ、ビートルズ曲とバラエティーにとんだ選曲を辛島がどういう風に調理するかメンバーがそれをどう展開するかが本セッションの肝である。
 (1)<ストレート、ノー・チェイサー>でソロの先陣を切るのは原朋直(tp)。モンクの『Five by Monk by Five』(Riverside)ではサド・ジョーンズがとぼけた味をだしていたが、ここでの原は正攻法、真っ向からブリリアントにブロー、続いて峰厚介がスッと入ってくる、この入り方が渋い。
 会場の雰囲気をリラックスさせるにはボサノヴァが一番、(2)<リカード・ボサノヴァ>は辛島文雄、鈴木良夫、村上寛のリズム隊がボサを快適にスイングさせるなかをフロントが気持ちよさげにソロをとっている。一番手の向井滋春の甘いトロンボーンが曲にぴったり合っている。
 (3)<ノルウェーの森>では鈴木良夫がレノン、マッカートニーのメロディーをしっかりと弾く。弦の響きが美しい。そして、少しゆっくり目のテンポをスイングさせる村上寛のシンバル・レガートも粋である。
 (4)<ソニー・ボーイ>はロリンズがプレスティッジ・レーベルに吹き込んだ同名タイトル盤で知られる曲であるが峰はソロの途中でH・シルヴァーの<シスター・セイデイ>の一節を引用するなど余裕のプレイでジャムの楽しさを伝えてくれる。また、ジャムには欠かせないフロントとドラム・村上寛との掛け合いもしっかりと演出されていて会場の盛況ぶりが伝わってくる。
 (5)<ファイヴ・スポット・アフターダーク>オリジナルの『BLUES-ette』(SAVOY)ではカーティス・フラー(tb)とベニー・ゴルソン(ts)の2管による低音のハーモニーが人気を博したがここではトランペットも入って3管でより華やか。チンさんのウォーキング・ベースに寛のブラシが絡み3管ハーモニーが入るという洒落たアレンジ。
 そしてアルバム最大の聴きどころが(6)<ラウンド・アバウト・ミッドナイト>。この曲だけはトリオでの演奏。はじめ辛島のソロで始まり、鈴木良夫と、村上寛が絶妙のタイミングで好サポート。辛島の躍動感あふれるピアノがドラマティックに爆ぜる。
 (7)<モーメンツ・ノーティス>は云うまでもなくコルトレーンの『BLUE TRAIN』(BLUE NOTE)の一曲。日ごろ、コルトレーン?そんな偉い人なんて!と煙にまく峰が颯爽と先陣を切ってイントロを吹きあげる。 
 夜行列車のブルー・トレインは廃止となったがジャズのブルー・トレインは神戸の街に復活、ジャム・セッションを締めくくった。

 Hyogoクリスマス・ジャズ・フェスティバルはジャズの街神戸で例年開催されている大規模なジャズ・フェスティバルで数多くのビッグ・ネームがステージを飾っている。昨2014年は渡辺貞夫や山下洋輔、北村英二、アロージャズオーケストラ等々が夫々コンサートを行った。
 「オールスター・ジャム・セッション!日本ジャズ界の巨匠たち」と銘打ったこのコンサートもその一翼を担っていて今年で3回目のコンサートになるそうだ。ハービー・ハンコックがたった一夜のために結成したV.S.O.P.は盛況を呼び歴史的なビッグ・コンボとして持続した。
 新宿ピットインゆかりのミュージシャン達がつどったTHE J・MASTERSはまさに日本版V.S.O.P.+1となって新宿と神戸という2大ジャズ・シティーの交流を深めジャズのすそ野が広がることを期待したい。(望月由美)

望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.