#  1209

『Samuel Blaser Quartet/Spring Rain』
text by Kayo Fushiya


Whirlwind Recordings
WR4670

Samuel Blaser (trombone)
Russ Lossing (piano, Fender Rhodes, Wurlitzer, Minimoog)
Drew Gress (b)
Gerald Cleaver (ds)

1. cry want (04:05)
2. missing mark suetterlyn (05:38)
3. temporarily (03:46)
4. homage (01:06)
5. umbra (02:10)
6. the first snow (03:42)
7. scootin’ about (02:23)
8. trudgin’ (05:27)
9. spring rain (05:38)
10. trippin’ (03:45)
11. counterparts (03:20)
12. jesus maria(08:00)

All compositions by Samuel Blaser except 5 by Samuel Blaser and Russ Lossing, 1,7,8 by Jimmy Giuffre, 3,12 by Carla Bley

Recorded by Dave Darlington on January 3-4, 2014 at Water Music, Hoboken, New Jersey (tracks 2,3,6,8,9,11) and by Tobias Lehmann on December 19, 2014 at Teldex Studio, Berlin, Germany (tracks 1,4,5,7,10)

Mixed and Mastered by Dave Darlington at Bass Hit Recording, NY on January 9, 2014 and January 5, 2015

Artistic Director: Robert Sadin
Producer: Samuel Blaser
Exective Producer for Whirlwind Recordings: Michael Janisch

静謐な凄みただようサミュエル・ブレーザーの新作---ジュフリーへのオマージュ

サミュエル・ブレーザーについていつも感じるのが、音間にただよう圧倒的な貫禄である。音楽が始まる前からの佇まいですでに一歩も二歩も抜きん出ているのである。これをどう説明すればよいのだろうか。サミュエルのアルバムは第一作からレヴューしているが、隅々まで見通しの行き届いた、透徹したサウンドクリエイト力にまず感嘆するばかりだ。本作はフリーミュージックの先駆者ともいえるJimmy Giuffre(ジミー・ジュフリー)へのオマージュ。ジミーに創作意欲を刺激されるミュージシャンは数多いが、このサミュエルの作品もまた、楽器間の縦横無尽なインタープレイを推進したこの先駆者にならうがごとく、多様な音の満ち引きに絡め取られるスリリングな一作だ。サミュエルと双頭を担っているのがピアニストのラス・ロスィングであり、アコースティックとフェンダーの巧みな使い分けとオーバーダブが、アルバム全体の緊迫性とドライヴ感の手綱をにぎる。屹立した音色とメカニックで、筋の良さが一聴して明らかなピアニストだ。また、こうしたオマージュ作品の場合、インプロヴィゼーションの質や新曲以上に、既存の楽曲(本作の場合はジュフリーとカーラ・ブレイ)を活かすも殺すもミュージシャンの底力次第。サミュエル・ブレーザーは、ジュフリーの音楽人生のなかに緩やかにダイヴし、その軌跡を現在のコンテクストのなかでさり気なく蘇生させる。ある種の懐かしさとともに新鮮な輪郭をもって、広大なアンサンブルの一翼をなすのだ。非常に感覚的でありながらも的確に楽曲の機微を捉えたサミュエルのアレンジメント・センスに唸る。作曲/編曲/即興が平等な地平で花開く成熟の境地。フリー・ジャズといえば、縦ノリ・轟音・楽器間格闘、といったイメージからいまだに抜け切らないわが国の傾向とは対照的。演奏能力云々をはるかに超えた次元で勝負できる数少ないグループである。(伏谷佳代)

【関連リンク】
http://www.samuelblaser.com/
http://www.russlossing.com/russlossing.com/home.html
http://www.drewgress.com/drew.html
http://www.allmusic.com/artist/gerald-cleaver-mn0000945381

【関連レヴュー】
http://www.jazztokyo.com/five/five971.html
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011b/best_cd_2011_inter_01.html

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。 JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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