# 1211
『Tim Berne's Snakeoil/You’ve Been Watching Me』
text by Masanori Tada
ECM 2443 |
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Tim Berne: alto saxophone
Oscar Noriega: clarinet, bass clarinet
Matt Mitchell: piano and electronics
Ryan Ferreira: electric and acoustic guitars
Ches Smith: drums, vibraphone, percussion, timpani
01. Lost In Redding 6:58
02. Small World In A Small Town 18:26
03. Embraceable Me 14:12
04. Angles 2:26
05. You’ve Been Watching Me 1:46
06. Semi-Self Detached 10:23
07. False Impressions 13:22
Recorded December 2014 at The Clubhouse in Brooklyn, NY
Recording Engineer: D. James Goodwin
Produced by David Torn
ティム・バーンのバンド“スネイクオイル”へび油の、ECM第3弾が届いた。ファースト、セカンドで見せた最高水準のアブストラクト・ジャズの躍動、さらにメンバー間の可変性が捏ねられて弾むようになっているではないか。ライアン・フェレイラという色彩ノイズ感覚で異化効果を放つギタリストも配置されており、耳の越境を加速させている(タイトル・トラックはフェレイラのユルくて不安げな2分弱のアコギ・ソロである)。
剛鉄のワイヤーで構成され、編み上げられたタペストリー。3作目では、そのダンサブルのありように余裕と優雅さが出てきている。表現の幅が拡がった。それはつまり進化というよりも、ファースト、セカンドで見せつけたタイトな力技をパラフレーズして可能性に遊んでいる風情でもある。
ティム・バーンも60さい。JMTレーベルで80年代の新伝承派のアンチを蜂起した一群の雄であり、90年代には自主レーベル“スクリューガン Screwgun ”を立ち上げ、“Thirsty Ear”プロジェクトにも参加しつつ、現代ジャズ・シーンのトップに君臨するサックス奏者だ。
火薬の匂いがするサウンドがスクリューガン・レコーズ(http://www.screwgunrecords.com/)の真価だろう。ブラッドカウントやサイエンス・フリクションのデラックス・エディション・ボックスを我らに。
クレイグ・テイボーンもECMで開花したわけだし、マルク・デュクレやクリス・スピードもECMが契約するならば、スクリューガンの四天王がECMで世界的流通に乗るならば、地勢は一気に変化する。強度あるジャズをECMに。
スネイクオイルの面々は、クラシックなアンサンブル・コンポジションにも挑みはじめている。そっちにも行くのか?
Tim Berne's Snakeoil + Sentieri Selvaggi
https://www.youtube.com/watch?v=B6gmrWR2-mU
フレーズも即興も対位法も複合リズムもアンサンブルの躍動に編みこませる戦略は、現代ジャズの潮流になっているが、ティム・バーン、ヘンリー・スレッギル、そしてスティーブ・コールマンといったかつての開拓者が今もなお、最前線にてシーンを引っ張っている。ここで「戦略」と記してしまったが、リーダーの本能に欲動によって起動したものだ。そして、アンサンブルに必要な強靭な演奏者が集っている。彼らは身体を継承している。総体として、進化する生命体のようである。
関連リンク
http://www.jazztokyo.com/five/five1056.html
http://www.jazztokyo.com/five/five890.html
(付録として、ECM短信)
ECMレーベルには慰労金制度があるのだろうか、70さいバースディでジャレット『Creation』をリリースしたり(http://www.jazztokyo.com/five/five1195.html)、ECMの財政とジャズ・ピアノの王権を支えてくれたスタンダーズの面々のリーダー作もリリースされている。
■『Now This / Gary Peacock Trio』 ECM 2428
音がいい。演奏は70年代ECMに並んでいそうな風情。かつてプーさんはマリリン・クリスペルの『Amaryllis』(http://en.wikipedia.org/wiki/Amaryllis_(Marilyn_Crispell,_Gary_Peacock_and_Paul_Motian_album))に対して、同じリズム隊を率いている者として「こう彷徨ってしまうと、長く抜けられないんだ」と口にしていたが、そのレベルにすらはるか及ばない。おそるおそるおじいちゃんの車椅子を押しているだけだ。それにしても、ゲイリー。アルバート・アイラーの『Spiritual Unity』やテザート・ムーンの『First Meeting』という潮流を変える名盤を支え、『Tales of Another』でスタンダーズの原型を奏でたベーシストなのだ。80さいのバースディ記念リリースとして、祝福して耳にしよう。
■『Made in Chicago / Jack DeJohnette』 ECM2392:
https://www.youtube.com/watch?v=edLWmyTegvk
Henry Threadgill: alto saxophone, bass flute, bass recorder
Roscoe Mitchell: soprano and alto saxophones, wooden flute
Muhal Richard Abrams: piano
Larry Gray: double bass, violoncello
Jack DeJohnette: drums
つい、現代ジャズの覇王スレッギルのクレジットを見てよもやと手にしたが、同窓会に出て君臨するわけにはゆかないか。AACMの50周年記念コンサートの実況録音盤。60年代フリー・ジャズは、やはり開祖たちが音を交わしあうと、そのオーラ、説得力がちがう。初代会長ムハル・リチャード・エイブラムス84さいのピアノを久しぶりに聴いた。聴けば聴くほどヴィンテージの味わい、二人のフルートさばきが堂に入っていて、フリーダムな気分に飛翔できる。こういったグレート・ブラック・ミュージックの系譜は、魔王ウイリアム・パーカーが主宰する Aum Fidelity レーベルに現在形として継承されているものである。(多田雅範)
多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。
追悼特集
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
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