ワシントンDCのゲットーで、ジャズとGoGoミュージックの洗礼を受け、1988年にニューヨークに進出したマーク・キャリー。数々の才能溢れる若手を輩出したベティ・カーター(vo)のグループや、アビー・リンカーン(vo)の右腕として、ストレートアヘッド・ジャズの分野で活躍する一方で、当時勃興し始めたHip Hopのサーキットでも頭角を表し、Q-tipらの初期作品に参加する。1995年に初リーダー作をリリースして以来、ジャズ、エレクトリック、インド音楽、マリ音楽と、サウンド曼荼羅の如く様々な音楽を吸収して、自己の音世界を構築してきた。
　今年20周年を迎えたリーダー・レコーディング・アーティストとしてのキャリアの中で、当時の状況を打開する重要な作品となったのが、1999年にリリースした『Rhodes Ahead Vo.1』だと言う。盟友トーラス・マティーン(el-b)とテリオン・グリー(ds)を中心に、フェンダー・ローズ・ピアノとアナログ・キーボードを縦横無尽に駆使して、サウンド・テクスチャーはフュージョン／ジャズ・ロック全盛の70年代を感じさせながら、リズム・ストラクチャーは当時のブラック・ミュージックの最先端をゆくという、高度なハイブリッド・アルバムだった。
　それから16年、エスニック・ミュージックなど、さらなる音楽変遷を辿った後に、満を持して『Rhodes Ahead Vol.2』がリリースされた。前作のコラボレーター2名を中心に、タブラ、ジャンベなどのパーカッションや、ホーン、バイオリンが、多彩なサウンドを描き、キャリーが、ローズ、ハモンドB3オルガン、アナログ・シンセで、サウンドを支配するバッキングと、エッジの効いたソロをとる。70年代マイルスや、ウェザー・リポート、リターン・トゥ・フォーエヴァーへのオマージュも、垣間見える。現代の視点から、70年以降の音楽シーンを俯瞰し、再構築することによって21世紀の音楽の新たなドアが、開きつつあることを感じさせるアルバムである。

　4月17日のハーレムのサパー・クラブ、ジニースでのCDリリース・ギグでは、ベースはマティーンに替わり、近年行動を共にしている若手のラッサーン・カーターだった。しかしグルーヴは強力で、アルバムのコンセプトが拡大し、よりアグレッシヴ、スポンテニアスなプレイが炸裂した。インプロヴァイザーの面目躍如である。（常盤武彦）

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Marc Cary
http://www.marccary.com