#  1216

『Mikko Innanen with William Parker and Andrew Cyrille/SONG FOR A NEW DECADE』
text by Takshi Goda


TUM Records TUM CD 042-2

Mikko Innanen (as, bs, cl, fl, whistles, perc, etc.)
William Parker (b) CD-1 only
Andrew Cyrille (ds)

CD-1
1. Song for a New Decade
2. The End Is a Beginning
3. Karl´s Castle
4. Look for the Red Door
5. A Morning, a Day, a Night
6. See You at 103
7. Blue in Nublu
8. Small and Big Steps

CD-2 Songs for This Decade
1. Song 1 08:45
2. Song 2 06:50
3. Song 3 05:07
4. Song 4 12:58
5. Song 5 12:26
6. Song 6 09:18

All compositions by Mikko Innanen, except "Look for the Red Door" by Mikko Innanen, William Parker and Andrew Cyrille and "Songs for This Decade" by Mikko Innanen and Andrew Cyrille

即興音楽の来るべき十年を予感させるワン・ホーン・トリオ-α(マイナス・アルファ)

サックス偏愛家として筆者が最も好むジャズ・コンボのスタイルはワン・ホーン・トリオである。アルバート・アイラー・トリオ(ゲイリー・ピーコック、サニー・マレイ/カッコ内はベース、ドラムスの順、以下同)、オーネット・コールマン・トリオ(デイヴィド・アイゼンソン、チャールズ・モフェット)、バイロン・アレン・トリオ(メイシオ・ギルクライスト、テッド・ロビンソン)、坂田明トリオ(アデルハルト・ロイディンガー、森山威男)、クリス・ピッツイオコス・トリオ(マックス・ジョンソン、ケヴィン・シェア)など、研ぎ澄まされた即興演奏の交歓度を最大限に発揮するのは、ジャズの星空の大三角形=トリオ編成にとどめを刺す、という妄信。独りだと行き過ぎそうな激情が、三つ巴の緊張状態のバランスを保ちながら、かと言って三竦みに陥ることなく、昇華され止揚され発憤されたサウンドは、トライアングルのトキメキで聴き手の心と身体を刺激する。

『新たなる十年のための歌(Song for a New Decade)』と題された本作は、1978年生まれのサックス奏者ミッコ・イナネンと、1959年生まれのベーシスト、ウィリアム・パーカー、1939年生まれのドラマー、アンドリュー・シリルによる、トリオ半分、パーカー抜きのデュオ半分からなる。イナネンは母国フィンランドだけでなく北欧、さらにヨーロッパの21世紀フリージャズ・シーンを代表する新感覚派として精力的に活動する。2008年以降何度もニューヨークに長期滞在し、多くの音楽家と交歓してきた。

そんな交流の中、2010年1月にブルックリンでレコーディングされたのが、パーカーとシリルとのトリオ演奏のCD-1である。即興音楽の偉大な先達と共にプレイすることに、30代の新進演奏家は初めは緊張したそうだが、すぐにリラックスして自分らしいプレイをすることこそ、先輩二人への最大のリスペクトであることを理解したという。三人共作のM-4以外は全曲イナネンの作曲。同時代のNY即興シーンの演奏家たちと同じく、即興と作曲の両面を垣根なく兼ね備えたフレキシビリティを内包するイナネンの演奏理念が見事に二人のベテランに共有され、まさに三位一体の「トリオ」としての演奏を繰り広げる。ブックレットには、曲ごとにイナネンによる日記風のコメントが付されている。全曲ニューヨーク生活の経験から生まれた楽曲である。

「2009年最後の日に、サウス・イースト・ウィリアムスブルグのライアン・ブロトニックの古い店でひとりぼっちで過ごした。新たなる十年の前夜。ちょっと困惑。ブロトニックのアコースティック・ギターで大騒ぎ。一緒に合唱。新しい時代の始まりを待ちながら。」(Song for a New Decade)

CD-2はイナネンとシリルのデュオで、2012年6月に同じくブルックリンでレコーディングされた。決め事なしの完全即興演奏。6つのパートに分かれているが、実際はノンストップの演奏を、CD収録のために分割したという。「トリオ-(マイナス)ワン」は2ではない。CD-1とはまったく異なる音世界を創造した。二人の即興演奏家が、40年の歳の差をものともせず、思う存分語り合い、笑い合い、罵り合い、泣き合い、抱き合った記録をそのまま収録した迫真のドキュメント。この演奏を『今の十年のための歌(Songs for This Decade)』とタイトルしたのは、これが、過去や未来ではなく、今ここにいる二人の現在の記録に他ならないからであろう。

国境と世代を超えた音楽家の交歓により、未来に向けてのパワーと、現在進行形のエネルギーを発散する本作は、ワールド・ワイドに拡大し続ける即興音楽の生んだ芳醇な果実である。筆者のワン・ホーン・トリオ偏愛歴に新たな1枚が加わった。(剛田武)

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剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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