シカゴ出身で、長く同地で演奏活動を続け、2012年にニューヨークに進出したベーシスト、ローリン・コーエンのデビュー作は、故郷のシカゴ、ニューヨーク、そしてカリビアン・アイランドに思いを馳せたアルバムだ。少年時代からの盟友ライアン・コーハン(p)に、コーエンを自らのグループに起用しレコーディング、ワールド・ツアーに誘った元ボスのジョー・ロック(vib)、フランス出身のハモニカ・プレイヤー、イヴォニック・プレーネ、スティール・パン・ドラムの名手ヴィクター・プロヴォスト、ニュー・オリンズ出身のドナルド・エドワーズ、ヴェテラン・パーカッション・プレイヤーのサムエル・トレスという、リズム／打楽器を前面に打ち出した編成だ。もちろん強力なグルーヴに、美しくポップなメロディが寄り添う。コーエンのキャリアで、ジョー・ロックと並ぶ大きな影響を与えたリーダーは、2007年から2011年まで行動を共にした、カリブ海のアンティル諸島出身のモンティ・アレキサンダー(p)だ。幼き日の夏休みに訪れた南フロリダのホテルのプールサイドで演奏されていたレゲエに魅了されてから、抱いていたカリヴィアン・アイランド・ミュージックへの憧憬が、アレキサンダーとの共演で開花した。本作でも＜Saudade＞、＜Always in My Heart＞、＜A Brighter Day＞らのカリビアンの影響の濃いナンバーが、フィーチャーされている。オープニングの＜Crossing＞、＜Finding Center＞、＜Anthem＞、＜The Hero's Journey＞は自らのルーツであるシカゴ・ブルースと、現在住んでいるニューヨークのサウンドを融合させた、コンテンポラリー・ジャズだ。亡き父に捧げた＜The Sweetest Soul (For My Father)＞は、コーエンのボーイングをフィーチャーしたスピリチュアル・バラードである。Homeというアルバム・タイトルに、自らのルーツに回帰しリーダーとしての新たな出発点とする強い意志が感じられる。デビュー作にして、ベーシスト、作編曲、リーダーシップと高い水準をクリアーしている。次回作も大いに期待したい。

　CDリリースのバードランドに於けるライヴでは、ヴィブラフォンのジョー・ロックは客席だったが、ハーモニカとスティール・ドラムのコンビネーションでカリビアン・チューンをプレイすると、30数年前に聴いたジャコ・パストリアス(el-b)のコンボを彷彿させた。この楽器編成に、まだまだ大きな可能性を秘めていると感じさせる、ギグだった。（常盤武彦）

【関連リンク】
Lorin Cohen: http://www.lorincohen.com