# 1228
『Han Bennink & 豊住芳三郎/DADA 打、打』
text by Yumi Mochizuki
ハンとサブのおよそ20年前のデュオが陽の目を見た
今年でハンが73歳、サブ71歳になるが二人ともまだまだ若い、ましてやこの20年前はすこぶる元気が良い。雑味のないすっきりとしたツイン・ドラムはうるさくなくこのうっとうしい梅雨空を吹き飛ばしてくれる、爽快。
二人のデュオはアルバムの3曲目、サブのソロに続いて行われた。幸いなことにYouTube上でこの日の二人の映像を見ることが出来た(作者:末冨健夫氏、6月12日現在)。
https://www.youtube.com/watch?v=wdxIqbhHC7E
映像は(2)<SABU’s SOLO>の途中から始まり、サブの多彩なスティックさばきが終了するとステージ右手からハンが水の入ったジョウロを吹きながら登場し、サブも鐘を叩いて呼応する。ハンがカウベル様のものを叩きステージを歩くとサブは和太鼓を持ち出し平手でたたき始める。これまでに何度か見て頭に焼き付いている光景であるがやはり懐かしさ以上の鮮度がある。やがてハンがドラム・セットに座りソロを始める。ハンのソロのあいだサブはステージ上をバスタムを外して手に持って叩いたり、和太鼓をバチで叩いたりと歩き回る。ハンはサブのドラム・セットが空いていると見るやセットを乗っ取りサブのセットで叩き始める。
この映像で分かった。(3)<Dadakko駄々っ子>で左手のセットで叩いていたはずのハンの音が右から聴こえるのである。左右のドラム・セットを自在に操る20年前のハンは想像以上にアクティヴで快活であった。このような映像を頭に描いてCDを聴くと二人のリアクションが伝わってきて面白さが倍増する。
会場となった小学校のホールの前席には子供たちの頭が見える。この日は小学生たちが招待されていたのだそうだ。
ハンは途中でピアノを弾き歌い語り掛け、サブはハイハットで応える。ハンのピアノは心なしかミシャのピアノの道化が見え隠れする。そして二人のドラム・ソロの応酬。
ドラム・セットだけでなく身体全体、ステージの空間全体を使って子供たちとのコミュニケーションをとる二人の光景が音から浮かび上がる。
そして、いつも見かけるシーンだが部屋のあちこちを叩きながら音が去ってゆき<サンキューヴェリーマッチ〜サブー…>というハンのアナウンスがあって終わる。
ハンは昨年の夏、ICPと一緒に来日した時に何箇所かで単独のパフォーマンスを行った。その一つの御茶ノ水ディスクユニオンJazzTOKYOでのソロ・パフォーマンスでは例によってスネア一本で見事なショーを演じた。最近のハンはスネア一本でのプレイが多いが20年前のフル・セットを全力で叩くハンはスピードがあって気持ちを高揚させてくれる。
話はそれるが昨年の来日時にはソロ・パフォーマンスと同時に自作の絵画の個展も開いてくれたがハンの絵はハンの音楽と同様ファンタスティックだった。ハンの作品はハンのホーム・ページでも見ることが出来るが、原画を見ることが出来たのは幸いであった。
音の見える風景Chapter2.ハン・ベニンク
http://www.jazztokyo.com/column/mochizuki/chapter-002.html
(1)<Han’s SOLO>は文字通りハンのソロ・パフォーマンスである。スティックで辺り一面を叩き始める。加工なしの直接音が耳に心地よく染み渡る。シンバルの強打からからスネアによるマーチ風のスクロール。そしてフル・セットを使ったソロと移行しピアノも弾き、ドラムとピアノとの一人合奏をへてハイハットやブラシを使ったワンマンショーを演じる。 いつもながらのハンの陽気な表情が目に浮かぶようである。そしてショーがクライマックスに達したところでハンはブラシにのせて口笛を吹き始める。<ハイホー、ハイホー>と、「ディズニー映画・白雪姫」で小人たちが歌った<Hi-Ho>を楽しげに歌う。居合わせた子供たちはジャズの自由さを、身をもって体験したのだ。小学生が学校でハンの一挙手一投足を目のたりに見、聴けるなんて、こんなハッピーな出来事は無いのではないか、しかもこうした形でCDとして残るなんてこの子たちは何て幸せなのだろうと思う。
一方の“SABU”豊住芳三郎、通称“SABU”は1978年9月9日、阿部薫(as)の突然の死以後、海外での演奏活動が多くなる。そして1980年代の半ばごろから海外の友人たちを次々と日本に招き日本に真のフリー・ミュージックを聴かせてくれた。ジョン・ゾーン(sax)、デレク・ベイリー (g)、レオ・スミス(tp)、ミシャ・メンゲルベルク(p)、ペーター・ブロッツマン(reeds)等々でハンもその中の一人である。
今年の4月、新宿ピットインの50周年記念ライヴ・シリーズの一環として「ブロッツ&サブ 2DAYS」を行った。4月18日のゲストは近藤等則(tp)であった。懐かしいメンバーがそろったが演奏そのものは元気溌剌、ブロッツマンも近藤もフレッシュなソロを聴かせてくれ、この時もサブは元気なマレットさばきを見せてくれた。
サブのフリーの根っこには富樫ゆずりのジャズのスピリットが息づいていてフリーといえども難解さはない。再びCDに話を戻して、この日は先発のハンがかなりとばしているのでサブも気合が入っていたようで、マレットからのスタートである。サブは映画「真夏の夜のジャズ」チコ・ハミルトンの<ブルー・サンズ>が好きで高校生の頃よく見たと聞いたことがあるが、どうも本気になるとマレットを使うようだ。そしてスティックに持ち替えたあと、手で叩き始める。ハンド・ドラム+ハイハットというサブならではのスタイルが聴ける。サブのソロは今も昔も変わらずハッピーで楽しい。
音の見える風景Chapter23豊住芳三郎
http://www.jazztokyo.com/column/mochizuki/chapter-023.html
アルバム『Han Bennink & 豊住芳三郎/DADA 打、打』は「Free Jazz in Zepp ちゃぷちゃぷ」シリーズとして山口県防府にあった「カフェ・アモーレス」を運営していた末冨健夫氏が録りためた音源の中から選ばれた20作品中の第一弾5枚の中の一枚で、他には「姜泰煥/KANG TAE HWAN」、「Evan Parker&吉沢元治/Two Chaps」、「崔善培カルテット/The Sound Of Nature Live at 新宿PIT INN」、「高木元輝/不屈の民」が同時発売される。更にこれらの作品はLP(一部内容は異なる、250枚限定盤)でも発売されるというからこのスタッフのフリー・ミュージックにかける執念ともいえるほどの情熱がこのシリーズから伝わってくる。このシリーズの成功と更なる発展を心から応援したい。(望月由美)
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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