# 1230
『近藤秀秋/ASYL:アジール』
text by Takeo Suetomi
PSF Records PSFD210 定価2,000円(税込) |
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近藤秀秋 KONDO Hideaki (guitar, 10 strings guitar, biwa),
中溝俊哉 NAKAMIZO Toshiya (oboe),
神田晋一郎 KANDA Shin-Ichiro (piano),
河崎純 KAWASAKI Jun (contrabass),
ヒグチケイコ HIGUCHI Keiko (poetry reading)
1. Points (H.Kondo)
2. Repetition (H.Kondo)
3. 漂泊者の歌 (詞:萩原朔太郎/訳:ヒグチケイコ/曲:近藤秀秋)
4. Night Club 190 (Astor Piazzolla)
5. Red (H.Kondo)
6. Rain (H.Kondo)
7. Hier ist Friede (Alban Berg)
8. Blue in Green (Miles Davis)
録音:2014年 東京
汎音楽の視点から多様な音楽をギターという楽器に集約し統合を図った注目すべき作品
1990年代は、まだまだヨーロッパや日本のフリー・ジャズ第一世代も第一線で活躍していた。彼らは今でも現役バリバリの元気の良さを保っている。と、同時に彼らに次ぐ世代も第一世代とは何か別の斬新な音楽を作ろうと切磋琢磨した。とくにアメリカのミュージシャンはヨーロッパに取られた感のある主導権を取り戻すべく、雑多な音楽の混交に活路を見出した。このニューヨークのダウンタウン界隈を根城とする一派が70年代終わりから活躍を続けていた。そんな90年代も終わる1999年。日本ではEXIAS-J(Experimental Improvisers’ Association of Japan)と名乗るジャンルをまたいで集まった若手演奏家達が現れた。これはバンド、グループではなく志を同じくする者達による組織だ。
フリー・ジャズ/フリーミュージック/インプロヴァイズド・ミュージック等々と呼ばれる音楽も、とっくに「型」を持ってしまっていた。「フリー・ジャズ」と言われれば誰しも「ああ、あれね。」と想像してしまう。そこから脱出すべくミュージシャンは各々アイディアを展開して行った。EXIAS-Jは、「即興音楽」という既製の枠組み(型と言ってもいいだろう)から逸脱することを厭わないミュージシャン達による組織だった。ために、より構造的なアプローチを目指し作曲もする。アコースティックな演奏のみならずエレクトリックなアプローチも見せており(electric conception)、とくにCD『avant-garde』(2002年横浜エアジンでのライヴ録音)は、WIRE誌で即興部門ベスト15アルバムに選出された。演奏のみならず、視覚芸術やダンスとの「total art project」でも活躍し、リトアニア、ロシアで公演をしている。また、自身で運営するレーベルBishop Recordsその他で、一枚一枚それぞれにコンセプトを決め、安易な一発勝負の即興演奏を避け、充実した演奏を聴かせてくれた。
さて、このアルバム『ASYL/アジール』は、そのEXIAS-Jの中心人物、ギタリストの近藤秀秋(1971年生まれ)のソロ・アルバムの第二弾に当たる。一作目は2006年に収録された『Structures』だ。このタイトルどおりに構造を重視した一発勝負の即興に終わらない(一発勝負の即興の醍醐味は否定できないが)演奏が聴けるアルバムだ。このファースト・ソロ・アルバムのリリース後は、音楽書「音楽の原理」執筆のため演奏活動を中断していたが、書き上げたのを機に演奏を再開し、ここに8年ぶりになるソロ・アルバム『ASYL/アジール』を発表したのだ。
このアルバムの特徴だが、ここで演奏されている音楽を一言で「ジャズ」、「コンテンポラリー・ミュージック」等々と呼ぶことができないのだ。オリジナルのソロ・ギター曲が4曲。これとて、それぞれが異なった表情を見せる。中溝俊哉のオーボエとのデュオでピアソラの<Night Club 1960>を、アルバン・ベルクの<Hier ist Friede>は中溝のオーボエ、神田晋一郎のピアノ、河崎純のコントラバスと近藤の10弦ギターで演奏している。マイルス・デイヴィスの(ビル・エヴァンスのと言ってもいいだろう)<Blue in Green>は、近藤のギターと河崎純のコントラバスのデュオと、タンゴあり現代曲ありモード・ジャズありと多彩だ。もう一曲。とくに注目されるだろう一曲が<A Rover〜漂泊者の歌>だ。萩原朔太郎の「漂泊者」の英訳をヒグチケイコが朗読し、近藤秀秋の琵琶と河崎純のコントラバスが音を付ける。琵琶楽のモダン化だ。河崎の地響きを立てるようなコントラバスも凄いが、ヒグチケイコの重く垂れこめた朗読も素晴らしい。正直、私にはどの演奏もどこまでが書かれた部分で、どこからが即興なのか判別できない。作曲と即興の関係が音楽として理想の域に達しているのだ。汎音楽の視点から多様な音楽をギターという楽器に集約し統合を図った注目すべき作品となった。(末冨健夫)
末冨健夫 Takeo Suetomi
1959年生まれ。山口県防府市在住。1989年市内で、喫茶店「カフェ・アモレス」をオープン。翌年から店内及び市内外のホール等で、内外のインプロヴァイザーを中心にライヴを企画。94年ちゃぷちゃぷレコードを立ち上げる。第1弾はCD『姜泰煥』。95年に閉店し、以前の仕事(貨物船の船長)に戻る。2013年に廃業。現在「ちゃぷちゃぷミュージック」でライヴの企画、子供の合唱団の運営等を、「ちゃぷちゃぷレコード」でCD/LP等の制作をしている。
追悼特集
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