# 1232
『ロバート・グラスパー・トリオ/カヴァード』
text by Masanori Tada
Blue Note/ユニバーサル・ミュージック UCCQ-1042 定価2,300円(税別) |
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ロバート・グラスパー(p)
ヴィセンテ・アーチャー(b)
ダミアン・リード(ds)
1. イントロ
2. アイ・ドント・イーヴン・ケア
3. レコナー (レディオヘッド)
4. バラングリル(ジョニ・ミッチェル)
5. イン・ケース・ユー・フォガット
6. ソー・ビューティフル(ミュージック・ソウルチャイルド)
7. ザ・ワースト(ジェネイ・アイコ)
8. グッド・モーニング(ジョン・レジェンド)
9. 星影のステラ(ビクター・ヤング)
※日本盤のみExtended Version収録
10. レヴェルズ(ビラル)
11. ガット・オーヴァー
12. アイム・ダイイング・オブ・サースト(ケンドリック・ラマー)
13. ディラルード
録音:2014年12月2、3日@ハリウッド・キャピタル・スタジオにてライヴ録音
Produced and arranged by Robert Glasper
Co-producer & A&R : Don Was
グラスパーのピアノ、やはり上手い。でも...
ロバート・グラスパーを知ったのは、若林恵さんの名言「そっちこそコスプレじゃんか」とウイントン・マルサリスを評したレビュー(http://www.jazztokyo.com/newdisc/636/marsalis.html)に名前があった09年だった。ヒップホップとジャズ、それもあるか。その後、昨年若きジャズ評論家柳楽光隆さんが編集した Jazz The New Chapter を読んで、黒船のように目に飛び込むグラスパー像に圧倒された。そして、参照すべき多くの音源を、わたしは知らなかった。いろいろ聴いてきたつもりだったし、年上のジャズ評論家たちはわかってねーよなー、と、自分だけが若いつもりでいたが、気がついたら53にもなっていて、わかってねーのは自分だったと知らされたようなものだ。
(それでも Jazz The New Chapter に示された現代的視野の60%はわかっているつもりだと言いたくなっているところがセコイんだが。)
益子博之と現代ジャズを探索するイベント『四谷音盤茶話会』ではグラスパーはかけていない。デリック・ホッジは高く評価した。おれはもう Jazz The Old Chapter だよ!と言うと、すでに誰かさんが言っているという、うう、また負けた。
スイングジャーナル誌とアドリブ誌が分かれた必然の季節にちょっと似ている気もする。
さて、本作『カヴァード』。グラスパーのピアノ、やはり上手い。ブルーノートに居るような柔らかさ。でも、揺れている。余裕が甘さにすべる。個性やアクはない。おれはピアニストとして立っているわけではないから、と、打音が言う。ハンコックやメルドーを引き合いにして、強度やファナティックなちからを断ずるには二番煎じ感。2曲目は、メルドーとジュリアナみたいにカッコいい、というか同じ快楽にある。ハンコックによって開かれた扉からの音楽と本人が言っている、おっしゃるとおりです。11曲目のヴォイスが生理的に受け付けない、瀬戸物茶碗の底を擦るノイズと同等に聴けない、ごめんなさい。
グラスパーのブラック・レイディオ2作を聴いては「これはジャズじゃないな、ポップスだよね」と iTunes から消していたおいらだが、あらためて編集部から支給された2作と The Remix EP を聴く。グラスパーはグラミー賞R&B部門を獲ったのか、R&Bというんならそこらへんのジャズよりすごい!などと言葉遊びな感想に至る。
こういうのもジャズっていうのん、ヒップホップみたいでかっこいいね、おとーちゃんが聴いているジャズより新しくておしゃれだよ。
Jazz The New ChapterのECM特集おかげで、若いECMファンが増えてるよ、ECMカタログの引き合いが続いているよ。
「どうやら僕らが想像していた以上に、ジャズは大きく動いてしまっていたようだ。」(柳楽光隆)、ほんとだ、CDショップも、若きリスナーも、菊地成孔の言う「今ジャズ」も、このスムースで新しいグルーヴの季節を迎えている。んかー、バスに乗り遅れてしまった!
ブラコンとかフュージョンとかAORの時代を想起したり、ハンコックやクインシーが生きていたら(生きていますって!)こういうの得意だろなと思う。ディアンジェロやスヌープ・ドックみたいな火薬な匂いのするサウンドがすればいいと思うのだけど。(多田雅範)
多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。本誌ジャズ担当副編集長。
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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