国籍と世代を超えた地下音楽のコラボレーション

2014年3月に来日ツアーを果たした、白石民夫とカミッサ・ビュアハウスによるデュオ「大凶風呂敷」の1stレコード。これまでカセット・テープ作品をリリースしてきたカミッサ・ビュアハウスのセルフ・レーベル「Wild Flesh Production」の初のLPリリースである。2013年にニューヨークの幾つかの場所でレコーディングされた音源のコンピレーション。その中には結成されたばかりの頃に毎週セッションをしていたビュアハウスのロフトでの音源もある。
リードを噛み締めて吹く白石のトレードマークの演奏法で発せられる超高周波音に、ビュアハウス愛用のソヴィエト製シンセサイザーや木製電子オルガンの低音ドローン、更に両者のヴォイスが絡み合うサウンドは、地下音楽やアヴァンギャルドからイメージされる過激なものではなく、大自然や宇宙空間を想起させる、スペーシーなアンビエント・サウンド。空気を拡張するような広がりは、メロディーや歌詞がない分逆にイマジネーションを刺激する。二人の狙いは決してそこにはないことを知りながらも、敢て「心の平和をもたらす天空の調べ」と表現してみたい。35年以上の間独自の活動を続ける歴戦の音楽戦士と、二周り以上年下のフレッシュな異国の芸術家との間に今日有される現在進行形の美意識の結晶が刻まれた塩化ビニール盤である。
昨年の来日時には既に選曲まで終わっていたらしいが、帰国直後に白石が大病を患い入院したため、残りの制作作業はすべてビュアハウスが行ったという。演歌のレコードにありそうなジャケット・デザインは賛否両論ありそう（筆者的には賛同）だが、アニメや音楽を中心に日本の現代文化が海外で人気を博す近年の現象と、日本の地下音楽や前衛芸術に興味を持つ20代のビュアハウスの感性との間に共通したものが伺えて興味深い。

剛田 武　Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01