# 1243
『Tim Warfield/Spherical』
text by 望月由美 Yumi Mochizuki
Criss Cross Jazz Criss 1375 |
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Tim Warfield(ts,ss)
Eddie Henderson(tp)
Orrin Evans (p)
Ben Wolfe (b)
Clarence Penn(ds)
1. Blue Hawk (T.Warfield)
2. Oska T(T.Monk)
3. That Old Man(Traditional)
4. Gallop’s Gallop (T.Monk)
5.Off Minor T(T.Monk)
6. Ugly Beauty (T.monk)
7. Coming On The Hudson (T.Monk)
8. Off Minor U(T.Monk)
9. Round Midnight (Hanighem-Williams-Monk)
プロデューサー:Gerry Teekens
エンジニア:Michael Marciano
マスタリング:Max Ross
録音:2014年10月30日 Systems Two Recording Studios、Brooklyn、N.Y.
オリン・エヴァンスがモンクにどう取り組んでいるかが興味のポイント
最近、村上春樹が編集、翻訳した「セロニアス・モンクのいた風景」(新潮社)を読んでモンク熱が再燃したところで本アルバムに巡り合った。ティム・ウォーフィールド(ts)はCriss Crossの常連で本作が通算8枚目のリーダー・アルバムということだが、ティムのアルバムを聴くのは今回が初めて。
「Spherical」というモンクの名前をもじったタイトルと「Dedicated to Thelonious Sphere Monk」というサブ・タイトル、そしてオリン・エヴァンス(p)やクラレンス・ペン(ds)などニューヨークの「スモーク」や「スモールス」等のライヴ・シーンの最先端で活動しているメンバーの良さに惹かれる。
ティム・ウォーフィールドは子供のころ、父親のかけるマイルスやロリンズ、ブレイキー等のジャズを聴きながら育ったのだそうで、とりわけモンクはいつも家の中で鳴り響いていたという。
そうしたティムにはジャズのスピリットが自然と身についているようで、Criss Crossというレーベル・カラーともよくマッチし現在進行形のハードバップを展開している。
モンクと共演した歴代のテナー奏者たち、コールマン・ホーキンス、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ジョニー・グリフィンのような強烈なカラーを出すタイプではなく、チャーリー・ラウズのような一聴して地味な雰囲気だが堅実なプレイをするタイプで、ここでもブルース・フィーリングを身につけたメイン・ストリーマーとしての安定した力を発揮している。
また、オリン・エヴァンスがモンクにどう取り組んでいるかという点が興味のポイントでもあるが、オリンのアプローチが実に面白い。オリンはここでアレンジもしているがモンクス・ミュージックの再現は一切せず自分の音楽に咀嚼してモンクのエッセンスを抽出していて、良く知っていたつもりのモンク作品をやっぱり根っこはブルースなんだともう一度再認識させられる。とりわけ(5)と(8)に2テイク入っている<Off Minor T、U>はのどかで懐かしいリフがなんとも気持ちよく、『MONK`S MUSIC』(RIVERSIDE、1957)での部屋の空気を引き裂くような鋭利なサウンドに馴れている耳にはうっかりするとオフ・マイナーとは気付かずに通り過ぎてしまいそうな巧妙なアレンジが施されている。オリン・エヴァンスのアレンジのなんともルーズなユニゾンが気持ちよく人をひきつける魅力を持っている。
(1)<Blue Hawk>一曲のみがティムのオリジナル曲でブルー・モンクをもじって名付けたかのような曲想。Hawkつまりコールマン・ホーキンスに捧げた曲らしくシンプルなメロディーだがモンクの雰囲気はうまくかもし出されている。ティム・ウォーフィールド(ts)、エデイ・ヘンダーソン(tp)のソロはグルーヴィーという言葉がぴったり当てはまる極上品の現代版ハードバップ。
(3)<That Old Man>はモンクの1964年の作品『MONK』(CBS)に<Children`s Song>としてレコーディングされている日本でもなじみ深い古くからの童歌でライナー・ノーツによるとティム・ウォーフィールドは6才の頃とくにお気に入りだった曲なのだそうだ。ティムのテナーは地味だがしっかりとした落ち着いた音で安心して聴ける。
また(8)<Off Minor U>ではティムが後期コルトレーンを想わせる咆哮を始めるとクラレンス・ペンがエルヴィンさながらに激しく応酬、二人のやり取りがジャズ・バトルの面白さを再認識させてくれる。(4)<Gallop’s Gallop>はエデイ・ヘンダーソンが抜け、ワン・ホーンでの演奏。(6)<Ugly Beauty>がティムはテナーとソプラノ・サックスを吹くが、やはりテナーの方がしっくりとくる。
アルバム全体を通してオリン・エヴァンスがいつもの自分のトリオやビッグ・バンドの時よりもリラックスして弾いてティムをうまく乗せているし、クラレンス・ペン(ds)のドラムが小曽根真(p)トリオのときよりもラフで攻撃的で全体の刺激剤になっている。
これまでのモンク集というと如何にモンクの特異性や偉才を表現する類のものが多いが、ここでの5人はモンクへの畏敬の念をあらわしながらも、いつもどおりの自分の音楽に徹しているので安心して聴いていられる。
モンク集と云えばシュリッペンバッハの全曲演奏集『MONK`s CASINO』(INTAKT)やハル・ウィルナーの多彩な顔ぶれを集めた『THAT`s The WAY I FEEL NOW』(A&M)が定番であるが、この作品のようにごく日常的なライヴ・シーンのワンカットを切り取ったかのようなモンク集も面白い。
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。
フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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