マッコイ・タイナー、ジャッキー・マクリーン、ベティ・カーターら、偉大なる先達に捧げたジャズ・マスター達のオマージュ

アッパー・イーストサイドのジャズ・クラブ ”Smoke” のオーナー、ポール・スターシュが主宰するインディ・レーベル、スモーク・セッションズ・レコードのリリースは、今年に入ってピッチが上がってきた。”Smoke” の出演者のラインナップと同様に、現在のニューヨーク・ジャズのトレンドに左右されない、スターシュの確固たるジャズ観の映し鏡であるディスコグラフィーは、ジャズ黄金時代の血脈が、現代にも流れ続けていることを体現している。
本グループ、Heads of Stateの結成は、昨年9月の ”Smoke” に於けるラリー・ウィリス(ｐ)・オールスターズで、マッコイ・タイナー(ｐ)・セレブレーションを3日に亘って演奏し、好感触を得たことから始まった。ウィリス以外は、それぞれ異なる時期にタイナーのグループでプレイしており、強い影響を受けたと語っている。またメンバーは異なるコンビネーションで、70年代から共演を重ねてきたが、このメンバーが一同に会するのは初めてとのことである。そして今年の1月に再び ”Smoke” に出演後、シェア・サウンド・スタジオに入った。
アルバムには、タイナーのオリジナル・バラード＜Searching For Peace＞、ジョン・コルトレーン(ts,ss)・クァルテットのナンバーから”＜Impressions＞、＜ I Wish I Knew＞が収録された。7月26日のリリース・ライヴでもタイナーの『リアル・マッコイ』が熱く演奏される。バーツがタイナー・グループ在籍時の1983年にセロニアス・モンク(ｐ)に捧げて書きタイナーのアルバム『Ｄimenthions』に収録された＜Uncle Bubbe＞と、マイルス・デイヴィス(tp)の＜So What＞のコルトレーンのソロにインスパイアされて書いた＜Soulsstice＞がオリジナルである。それぞれがやはり異なる時期に共演し影響を受けたジャッキー・マックリーン(as)の＜Capuchin Swing＞、ベティ・カーター(vo)の＜Summer Serenade＞、そしてグレイト・アメリカン・ソングブックからの2曲で構成されている。どの曲も彼らの複数のリーダー・アルバムに繰り返し録音され、数十年に渡ってライヴでも演奏されてきた愛奏曲である。
バスター・ウィリアムスは、マイルス・デイヴィス、ハービー・ハンコック(p,kb)のグループに参加していた頃、毎晩同じ曲を演奏しながら、けっして同じプレイをしないと言うことを学んだと語る。「リハーサルは一切なし、一日に経験したことを、その夜の演奏に反映させる。常に新しいサウンドは生まれる」。熟練のヴァーチュオーソたちが、数十年にかけて熟成させた、先達へのオマージュがアルバム全体に滲みわたる。次のギグに再結集されるとき、また新たなページが書き加えられるのであろう。