# 1246
灰野敬二+ナスノミツル+一楽儀光によるプロジェクト2作
『静寂/LAST LIVE』
『灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光/静寂の果てに』
text by 剛田武 Takeshi Goda
『静寂/LAST LIVE』
灰野敬二(g, vo, fl, perc etc.)
ナスノミツル(b, effect, voice)
一楽儀光(ds, voice)
disc 1
1. Blue Eyed Doll
2. Srijaku
3. Don't Blame It On Anybody
4. Showa Blues
5. Iranai
disc 2
1. Still Anyone Don't Notice
2. Young People
3. Use All Up The Body That Is Given To You
4. Let's Make It Clear
5. Look Over Here From The Other Side
6. We Cut The Top Of Fate And Take a Look Inside
7. Luck Of Prayer
8. Imi-kuzushi
9. 150 Tons Dynamite
10. Want To Head Back
recorded by Masami Sato (Club Goodman)
recorded on 24 December, 2012 @ Club Goodman, Tokyo
mixed and mastered by Yoshiaki Kondoh (GOK sound)
produced by Seijaku and Jun Numata
originator: Keiji Haino
『灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光 / 静寂の果てに』
灰野敬二(electronics, g, vo)
ナスノミツル(b, effect)
一楽儀光(electronics, effect)
disc 1
After Seijaku part 1
disc 2
After Seijaku part 2
recorded by Masami Sato (Club Goodman)
recorded on 21 November, 2014 @ Club Goodman, Tokyo
mixed and mastered by Yoshiaki Kondoh (GOK sound)
produced by Seijaku and Jun Numata
濃厚なる静寂の光と闇を炙り出す二篇の音楽ドキュメント。
静寂とは、70年代からアンダーグラウンド・シーンで究極のロックを実践する灰野敬二が、アヴァンギャルドからメインストリームまで幅広く活動しつつ灰野との共演歴も長いベーシストのナスノミツルと、「ドラびでお」として過激なメディアアート活動を行う異形のドラマー一楽儀光によって2008年に結成されたグループである。2012年末までに、全8回のライヴ活動を行い、2枚のアルバムをリリースした。
2011年3月11日、初のワンマン公演のために早めに会場入りし、セッティングを始めたところを大震災が襲った。その偶然が、静寂のその後の演奏表現に色濃く反映されることとなった。5月に延期されたリベンジ公演では、メンバー3人が「いらない!」と叫ぶ曲を披露。8月15日に大友良英等が企画した福島での「フェスティバルFUKUSHIMA」では、「最近の祭りには祈りが足りない」という灰野のMCで演奏をスタートし、震災後の世界への祈りを迸らせた。2012年のはじめに一楽が病気のためドラマー引退宣言し、それで終わりかと思われたが、同年のクリスマスイヴに、一楽のドラマー引退公演&ラストライヴが開催された。その2時間を超えるステージを全編収めたのが『LAST LIVE』である。
結成当時「灰野敬二Blues Band」と名乗ったことで判る通り、演奏は正に「ブルース」としか形容しようがない。ここでの「ブルース」は演奏技法やスタイルではない。黒人たちが日常の歓びや憂いを歌で表現したというルーツ通り「心の底からの感情表現」という意味での「ブルース」なのである。
灰野の手になるオリジナルに加え、「青い目の人形」「昭和ブルース」「若者たち」「ダイナマイトが百五十屯」といった童謡・歌謡曲や、ザ・ドアーズやステッペンウルフの曲が演奏された。しかしそれは、カヴァーでもなければ、ましてやトリビュートでもない。元の歌詞がいわばジャズにおけるテーマのように「素材」として使われるだけである。特に外国曲はオリジナルの英詞を灰野が咀嚼し独自に解釈した日本語の歌詩(歌"詞"ではなく)で唄われ、完全なオリジナル楽曲に生まれ変わる。
ギター、ベース、ドラムが深いリバーヴに沈み込む演奏は透徹して泣き濡れている。哀感の発露たる楽器の響き合いと祈りを捧げ続ける歌。平易な言葉を使いつつ独特の言い回しが抽象性を併せ持つ灰野の歌は、驚くほどの具体性と直情性を発揮する。その最たるものが「いらない!」であり、今回は「バカヤロー!」という激情直裁的な言葉が灰野の口から発せられることに驚く。「いらない!」は進化して「もういい!」になった。それは諦観ではなく否定を超えて能動への前進であり、主体としての静寂の精神的独立宣言に他ならない。
後半ところどころでドラムが中断する。灰野とナスノが「まだ行けるか?」と気遣うように間合いをとるのが感じられる。アンコールでステッペンウルフの「Born To Be Wild」の解釈「始まりに還りたい」を演奏。明らかに一楽へ向けた言葉を叫び、鬼気迫る演奏の迫力が凄まじい。2008年8月に灰野と一楽が共演し、この曲を演奏した後に一楽が「ブルース・バンドをやりたい」と言い出したのが静寂の始まりだったという。その曲で活動の幕を下ろすというのも(灰野は嫌うだろうが)「運命的」でありドラマティックな終焉ではないか。生み落とされた責任を見事に果たしたのである。最後に「一楽に拍手を」という灰野としては異例のMCも収録されており、単なるライヴ音源ではなく、命のドキュメントと呼ぶに相応しいアルバムである。
『静寂の果てに』は、『LAST LIVE』の2年後に開催された同名の公演のライヴ盤。ドラマーを引退した一楽は「ドラノーム」や「レーザー・ギター」というオリジナルの電子楽器で演奏を続けており、ナスノもエレクトロニクスを多用したソロ演奏を実践。勿論灰野はずっと以前からエレクトロニクスを自家薬籠中の物としている。フライヤーには「Ambient Version」とサブタイトルされており、エレクトロニクスを使って「静寂」の一般的なイメージに近い静謐な演奏を聴かせる試みと思われそうだが、ジャンルとしての「アンビエント・ミュージック」ではなく、灰野がよく言う「気配」に限りなく近い。ここに収められた111分ノンストップの演奏は、環境音楽などという生易しいものではなく、聴き手の周囲をネットリと包み込み、意識の中へ不穏な気配を注入する、極めて刺激的な実在音響である。静寂の闇は、あまりにも濃く、あまりにも深く、あまりにも重い。これもまた「ロック」であり「ブルース」である、と断言できるほどの開かれたマインドを持ちたいものだ。(2015年8月14日記 剛田武)
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
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