# 1247
『Max Johnson Trio / Something Familiar』
text by 剛田武 Takeshi Goda
Fresh Sound FSNT471 |
Kirk Knuffke (cornet)
Max Johnson (b)
Ziv Ravitz (ds)
1. Cindoze
2. Blips and Bloops
3. Cold Blooded
4. Little Arnie
5. Les Vague
6. Hammer Song
7. Something Familiar
8. Wind Song
Recorded December 21st, 2014 at Acoustic Recording by Michael Brorby.
Mixed by Max Johnson in the peace of his home.
Mastered at Park West Studios by Jim Clouse.
Original Artwork by Victoria Salvador
Produced by Max Johnson
Executive Producer: Jordi Pujol
All compositions by Max Johnson
贅肉を削ぎ落としたハードボイルド・ジャズ
クリス・ピッツイオコスと同世代のベーシスト、マックス・ジョンソンをリーダーとするトリオの3rdアルバム。コルネット奏者のカーク・ナフクは2005年からNYで活動をはじめ、ブッチ・モリスやラズウェル・ラッド、ウィリアム・パーカーなどとサイドメンとして60作以上のアルバムに参加し、リーダー/コ・リーダー作は15作を数える、NYCで最も忙しいミュージシャンの一人(New York Times)。イスラエル生まれのドラマー、ジヴ・ラヴィッツは2000年からNYに住み、リー・コニッツ、ジョー・ロヴァーノ、トーマス・スタンコなどと共演し、エンヤ・レコードとレコーディング・アーティストとして契約する実力派で、NYで最も求められるドラマーの一人である。
NYで最もオファーの多いベース奏者と呼ばれるマックス・ジョンソンが、同じく多忙なふたりと一緒にレギュラー・バンドとして4年間も活動を続けてきた理由は、三人のコンビネーションの深さを知れば明白である。適切にも『身近なもの(サムシング・ファミリアー)』とタイトルされた本作で、トリオの親密さと共に、長続きする秘訣が明らかにされる。
最初にベース音がさざ波を起こすと、エコーのようにコルネットが浮かび上がる。暫し語り合ううちに、ベースが一定のフレーズを奏で始める。それを合図にコルネットが声高に歌いはじめ、ドラムが細かいリズムで後を追う。三者が軽やかにステップを踏み、追いかけっこのはじまりだ。時に立ち止まって口論したり、ひとりだけ先に駆けて行ったりするが、鬼ごっこのように、立場が入れ替わり、追いつ追われつのスリルが続く。極めて自由度の高い演奏だが、フリーキーになり過ぎることなく、マックスの優れた作曲能力を最大限に活かしたプレイを繰り広げる。子供の遊びと違うのは、三人とも真剣そのものであること。食うか食われるかの真剣勝負。捕まりそうになると、いきなり別の方向に逃げて煙に巻く。そうかと思えば、もう降参と許しを乞うように切々とバラードを歌って追っ手を懐柔する。
通低するのはクールな空気感である。丁々発止の激しいインタープレイも、甘ったるいロマンティシズムもなく、過剰性を省いて淡々と繰り広げられるサウンドの疾走感は、ハードコアというよりハードボイルド・ジャズと呼びたい。ハードボイルド小説の主人公のように、冷酷なまでの精神的強靭さを持った三人は、いくら親密になろうとも決して馴れ合うことはなく、常に適度な緊張感を保つことで、バンドとしての一体性を保っているのである。
どこかの探偵の言葉ではないが、「タフでなければバンドはやって行けない」のである。そして「優しくなれなければバンドをやる資格がない」のは勿論だ。
(2015年8月16日記 剛田武)
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として執筆活動を行う。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
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