# 1248
『Cecil Taylor & Tony Oxley/Ailanthus / Altissima: Bilateral Dimensions Of 2 Root Songs』
text by 剛田武 Takeshi Goda
天国の樹が生い茂る即興音楽の桃源郷
FIVE by FIVE #1149で紹介したフランク・ロウの未発表ライヴ2枚組LP『OUT LOUD』をリリースしたTriple Point Recordsは、2009年に設立されたフリー・ジャズの貴重音源をアナログ盤オンリーでリリースする希少なレーベルである。フランク・ロウを含めこれまで3タイトルをリリースしている。その最初のリリース作品が、現時点でのセシル・テイラーの最新録音作にあたるこの2枚組LP。
英国生まれのドラマーにしてINCUSレーベルの設立者のトニー・オクスレーとテイラーは80年代から何度も共演しているが、21世紀に入ってからは、ほぼレギュラーの共演者としてデュオで公演を行っている。9歳違いの英米前衛音楽の闘士はお互い老境に差し掛かった現在、最良のパートナーとして行動を共にすることを選んだのである。2013年にテイラーが京都賞受賞式レセプションのために来日した時、オクスレーと一緒に演奏することを望んだが、病気のためにそれが叶わなかったという逸話もある。
本作に収録された81分の演奏は、2008年11月NYヴィレッジ・ヴァンガードでの2週間に亘るデュオ公演の10時間を超える録音テープの中から二人が選曲したという。タイトルの『Ailanthus Altissima』とは、別名「Tree Of Heaven」と呼ばれるニワウルシという落葉高木のこと。二分割した「Ailanthus」と「Altissima」という単語が各LPに割り振られている。「二つのルート・ソングの両極間の距離」というサブタイトルは、両者の間の国籍・人種・文化・教育・個性の違いを指すと考えられる。両極間に距離があるからこそ、二人が一緒に奏でる音楽は素晴らしい。当時79歳のテイラーと70歳のオクスレーの演奏は、20年前の1989年にベルリンで録音されたデュオ・アルバム『Leaf Palm Hand』の丁々発止のクロスプレイと比べれば遥かに丸くなったが、魂の奥で結びついた両者の共感の深みが醸し出す世界は、即興演奏の辿り着いた桃源郷を提示しているのかもしれない。
音楽に留まらず、テイラーは詩人、オクスレーは画家としてアートの分野でも名を成す二人のコラボレーションは、詩と絵画から成るジャケットと美麗カラー・ブックレットで完結する。まさに二人のエッセンスを凝縮したトータル・アート作品といえる。シリアル・ナンバー入り475枚完全限定盤。
(2015年8月17日記 剛田武)
Triple Point Records Website
http://triplepointrecords.com/
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#1149 『Frank Lowe Quartet / OUT LOUD』
http://www.jazztokyo.com/five/five1149.html
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として執筆活動を行う。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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