# 1250
『ヤン・ガルバレク|パット・メセニー|ゲイリー・バートン/オマージュ』
『Hommage à Eberhard Weber with Pat Metheny, Jan Garbarek, Gary Burton, Scott Colley, Danny Gottlieb, Paul McCandless and the SWR Big Band』
text by 神野秀雄 Hideo Kanno
ECM2463 9月11日発売 ユニバーサルミュージック UCCE-1151 9月9日発売 |
1. RÉSUMÉ VARIATIONS (Eberhard Weber / Solo Improvisations: Jan Garbarek)
2. HOMMAGE (Pat Metheny / Based on improvisations by Eberhard Weber)
3. TOUCH (Eberhard Weber / Arr. Ralf Schmid - “Yellow Fields”)
4. MAURIZIUS (Eberhard Weber / Arr. Michael Gibbs - “Later than Evening”)
5. TÜBINGEN (Eberhard Weber / Arr. Rainer Tempel - “Resume”)
6. NOTES AFTER AN EVENING (Eberhard Weber / Arr. Libor Šíma - “Pendulum”)
Pat Metheny (g, 2), Jan Garbarek (ss, 1), Gary Burton (vib, 2-6), Scott Colley (b, 2), Danny Gotlieb (ds, 2), Paul McCandless (ss, English Horn, 4-6) , Klaus Graf (as), Ernst Hutter (Euphonium)
Micahal Gibbs (cond, arr, 4), Ralf Schmid (arr), Rainer Tempel (arr), Libor Šíma (arr)
SWR Big Band conducted by Helge Sunde (2-6) and Michael Gibbs (4)
Nemanja Jovanovic, Felice Civitareale, Karl Farrent, Martin Auer, Rudi Reindl (tp, flgh)
Marc Godfroid (tb), Ernst Hutter (tb, Euphonium), Ian Cumming (tb), Georg Maus (bass-tb)
Klaus Graf (as, cl), Matthias Erlewein (as, fl, piccolo, cl), Axel Kuhn (ts, fl, piccolo, afl), Andi Maile (ts, ss, afl, cl), Pierre Paquette (bs, bcl)
Klaus-Peter Schopfer (g), Decebal Badila (b), Guido Joris (ds), Klaus Wagenleiter, (p,keyb)
Concert organized and produced by Martin Muhleis, sagas productions
Recorded by SWR, January 2015, at Theaterhaus Stuttgart by Doris Hauser, Volker Neumann, Boris Kellenbenz (technician)
Mixed at SWR Studio, Stuttgart, by Volker Neumann (engineer), Manfred Eicher, Eberhard Weber
Pat Metheny’s ‘Hommage’ mixed in New York by Pete Karam
Mastering: Christoph Stickel at MSM Studios, München
An ECM Production, in collaboration with SWR
エバーハルト・ウェーバー75歳祝賀コンサートのライヴ録音
ブルーノート・ジャズ・フェスティバルに出演するパット・メセニー作曲のビッグバンド曲を収録
2015年9月27日に横浜・赤レンガパークでブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン(BNJFJ)が初開催され、パット・メセニーと、エリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京・オールスター・ジャズ・オーケストラ(BNTASJO)が共演する。遡ること2015年1月23日と24日、エバーハルト・ウェーバー75歳の誕生日を祝して、雪の降るシュツットガルトに、初期ECMを代表する凄過ぎる仲間たちが集結したコンサートが開催された。幸運なことに現地で聴くことができたのだが、5月にBNJFJの情報が入ってきたときに、パット・メセニーは自ら作曲し初演したビッグバンド曲<Inspired>を日本で再演したいのではないか、と思い当たった。前後して9月7日、デトロイト・ジャズ・フェスティバルでもその北米プレミアを行うことも発表された。コンサートをアルバム化するにあたって、パットの30分に及ぶ大作は<Hommage>と改題され、アルバム名が『Hommage à Eberhard Weber』となってその中心に据えられることになった。
コンサートの詳細は演奏順にすでに紹介させていただいているので、ご一読いただき、その熱気を共有していただければ幸いだ。http://www.jazztokyo.com/live_report/report782.html
なお、SWR(南西ドイツ放送)ウェブサイトで公開されていた動画は見られなくなっているが、ECM playerで短いプロモーションビデオを見ることができる。https://youtube/9sEcdK72nZ0
ECMを代表するベーシストであったエバーハルト・ウェーバーは、2007年6月。ヤン・ガルバレク・グループのツアー中に脳梗塞で倒れ、半身が不自由となりベースを弾くことができなくなった。今回、エバーハルトの著書『Resume: Eine Deutsch Jazz-Geschichte』を出版したsagas.editionのマーティン・ミュレイス代表がプロデューサーとなってコンサートが企画され、かつての仲間たちに声をかけることになった。
エバーハルトが呼んだ顔ぶれを過去に照らし合わせると、キャリアの最後まで演奏を共にし、ソロで演奏したヤン・ガルバレクを別格として、『The Gary Burton Quartet with Eberhard Weber / Passengers』 (ECM1092, 1976年)に最も近いことがわかる。ゲイリー・バートン、パット・メセニー、ダニー・ゴットリーブ、エバーハルト、そしてスティーブ・スワロー。また、『The Gary Burton Quartet with Eberhard Weber / Ring』(ECM1051、1974年)は、ゲイリー、パット、エバーハルトらが参加している。『Pat Metheny Group』(ECM1114, 1978年)の大ブレークを前に『Pat Metheny / Watercolors』(ECM1097, 1977年)でパット、エバーハルト、ダンにライル・メイズが参加している。整理すると「ゲイリー・バートン・カルテット+ポール・マッキャンドレス+SWRビッグバンド」のように見える(ラルフ・タウナーも呼ばれたが、サウンドチェック中に体調を崩し参加できなかった。ポールは<Hommage>には参加していない)。長いキャリアの中で1970年代の一瞬の出会い。今敢えてこの構成を選択したエバーハルトの思い入れと感性を興味深く思う。特にパットが多忙なスケジュールの中、二つ返事で快諾し、エバーハルトへの素晴らしいプレゼントとして、ビッグバンド曲を作曲したほどの熱い想いに驚かされる。『Ring』録音時にパットは19歳、エバーハルトから1974〜77年は、エバーハルトにもパットにも原点となる特別な季節だったのだ。パットの想いはライナーノーツに「Music for Eberhard」と題して記されている。
コンサート冒頭で演奏された<Resume Variations>は、『I Took Up The Runes』(ECM1419, 1990年)から抜き出したエバーハルトのベースラインに、ヤン・ガルバレクがカーヴド・ソプラノ・サックスでソロ・インプロヴィゼーションを行い二人が美しく響き合う。アルバム2曲目の<Hommage>は実際にはコンサート第2部だが、電気アップライトベースを弾くエバーハルトの姿が巨大なスクリーンに映し出される中で演奏された。パットの説明から紹介する。
「2007年にエバーハルトが脳梗塞で倒れて以降、彼は演奏できなくなった。でも彼の音のアイデンティティというのは作品の中でとても大きな要素になっていて、何らかの方法でそれを表現し感謝を伝えたかった。そこでサンプリングという手法が頭に浮かんだ。エバーハルトのインプロヴァイズしているビデオを探して、再構成し、オーケストレーションして新曲を作り、バンドの背後にそのビデオを映しながら演奏する。ヴィジュアル・サンプリングという自分にとって新しい作曲方法になった。」「しかし、エバーハルトの長いインプロヴィゼーションの映像を含む実際に使えるビデオは2つしかなかった。1986年のシュツットガルトと、1988年のレーヴァークーゼンにおけるヤン・ガルバレクのコンサートでのインタールードだ。」
この作業と作曲は実に困難なものだったと言うが、エバーハルトのフレーズとサウンドにインスパイアされて構築され、パット独自のストーリーと世界観が創られ、ビデオのエバーハルトと、パットのギター、SWRビッグバンドが響き合う。作曲の妙で、ビッグバンドのサウンドの変化に合わせて、エバーハルトがベースラインを変化し躍動させていくようにも聴こえる。ソリストは、エバーハルト(ビデオ)、パットに加え、ゲイリー、スコット・コリー、ダニー・ゴットリーブ。横浜でもデトロイトでも、パット、スコットとダニーが参加する。
BNJFJでも<Hommage>が演奏される可能性は高いと思う。BNJFJに行く方が予習をするなら<Hommage>はぜひ聴いておきたいし、逆にあくまでも新鮮に聴きたいならそれまではおあずけにしたい一枚となる。そして、『Gary Burton / Passenger』や『Pat Metheny / Watercolors』をじっくり聴いて、パットとエバーハルトの響きとそこにある想いをつかんでおくと感動もさらに膨らむのではないかと思う。パットがパット・メセニー・グループ以前から音楽を共にし、敬愛してきたエバーハルト・ウェーバーへの溢れる想いで書いた新曲、そしてオーケストラ的な表現を持つと言われるパットをそれこそオーソドックスなビッグバンド編成で生で聴く貴重すぎる機会。またBNTASJOの過去の例にかんがみると、エリック編曲によるパットの名曲の数々も演奏されると思う。そして、パットを敬愛するエリック・ミヤシロをはじめとする日本が世界に誇るブラス集団、加えてピアノの林正樹と、パット、エバーハルトの響き合いという、何重にも特別な意味で、9月27日、横浜でのBNJFJは見逃せないと思う。
さて、アルバム後半<Touch>から<Tubingen>まで、実際には、コンサート第1部のヤンに続いて演奏されたパートについては、以前書いたコンサートレポートをご参照いただき詳細を割愛させていただくが、マイケル・ギブスと、ドイツの若いミュージシャン3人によってビッグバンドに編曲されたエバーハルトの名曲。あらためてエバーハルトの作曲とサウンドの素晴らしさを再認識する。エバーハルトによると、どの曲をビッグバンドに編曲するのかの選曲は任せて、エバーハルト自身へのサプライズとしてきかずにとってあったという。
ベニー・ゴルソン作曲<Killer Joe>が収録されなかったのは残念だ。ジャムセッション的な感覚が強く、ECM作品にするのは難しかったかもしれないが、4本マレットのゲイリーと並んでヴァイブラフォンの前に「立ち」、エバーハルトがマレット一本でとったリフとソロは、参加者すべてをハッピーにし、このコンサート最大のハイライトのひとつだった。アルバムの統一感もさておき、エバーハルトの現在の生音が収録されたら素晴らしかったのに。そしてエバーハルトは下がって、<Notes after an Evening>で締め括られ、出演者、関係者全員が出てきて横に並び深くお辞儀をして、スタンディングオベーションとなった。エバーハルトは、2日連続2時間以上にわたってステージ横に座って、コンサートのホストを務め切った。その体力と精神力は並大抵のものではなく、その健在ぶりと創作への終わらない意欲に驚かされた。この感動はビデオも撮られているし、アルバム化するにあたりもっとコンサートの記録感を残す手もあったと思うし、その意味では分かりにくさが残る。他方、コンサート全体の感動によりかからず、それぞれの曲を独立した完成品としてアルバムに再構築をするのも確かによかったと思う。エバーハルトの音楽の素晴らしさとその創造力が続いていることを示す優れたアルバムでありぜひお勧めしたい。そして、9月27日のブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパンで、その体験をおそらく共有できるのではないかと思う。ぜひ足を運んでいただきたい。
神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの“共演”を果たしたらしい。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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