# 1253
『Yaron Herman/Everyday』
text by Yumi Mochizuki望月由美
BLUE NOTE 472074-3 |
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Yaron Herman (p,vo on 13)
Ziv Ravitz (ds,vo on2)
Jean-Pierre Taieb (vo on13)
Hergi Jonsson (vo on8)
1.Fast Life(Y.Herman)
2.Vista(Y.Herman )
3.Points of You (Y.Herman)
4.Nettish (Y.Herman)
5.With Open Hands(Y.Herman,Z.Ravitz)
6.Everyday (Y.Herman,Z.Ravitz)
7.Five Trees (Y.Herman,Z.Ravitz)
8.Volcano Feat Helgi Jonsson(Y.Herman,J-P.Taieb,H.Jonsson,T.Dickow)
9.Prelude No4 Opus 74 (A.Scriabin)
10.Children Don’t Always Play Fair Y.Herman,Z.Ravitz)
11.Retrgrade(J.Blake)
12.City Lights(Y.Herman,Z.Ravitz)
13.18:26(Y.Herman,Z.Ravitz)
プロデューサー:Yaron Herman & Ziv Ravitz(except8:Valgeir Sigursson)
エンジニア :Julian Bassers
マスタリング:Lars Nilsson (except8:Valgeir Sigursson)
録音:Studio de Meudon
ヤロン・ヘルマンのBLUE NOTEデビュー作はジヴ・ラヴィッツ(ds)とのデュオ。ジヴの趣味の良いドラミングに触発されてヤロンが新しい変化の兆しを見せる
ピアノとドラムのデュオという組み合わせは意外と少ないのでやはり目をひく。ラス・フリーマン(p)とシェリー・マン(ds)の『SHELLY MANNE and RUSS FREEMAN』(CONTEMPORARY,1954)やセシル・テイラー(p)とマックス・ローチ(ds)の『HISTORIC CONCERTS』(SOUL NOTE,1979)、日本では渋谷毅(p)と森山威男(ds)との『SEE-SAW』(TOKUMA JAPAN,2001)などがあるが、やはりどちらかといえば珍しい組み合わせと言える。
ベースがいないとどうにも落ち着かない、安心できない、というのは演奏する側の都合であって、聴く方の立場からすると演奏さえ面白ければ一向にかまわない、ということで本作も興味深く聴いた。
ドラムのジヴ・ラヴィッツは前作の『Alter Ego』(ACT,2012)でも共演しているヤロンがもっとも信頼をよせているドラマーのひとりでヤロンと同じイスラエルの出身、昨年の秋には「ヤロン・ヘルマン・トリオ 2014 Japan Tour」で来日している。
ヤロンとジヴのデュオを基本にピアノ・ソロが2曲入っているが曲によってはひとの声をかぶせたりコーラスやシンセなどの効果音を重ねたりと、これまでのアコースティックなヤロンとは表現手法が変わってきているが、全13曲中の11曲Prelude No4 Opus 74がヤロンの曲もしくはヤロンとジヴとの共作で、二人の生地イスラエルをイメージさせるような素朴なメロディーが綿々と流れている。
ピアノ・ソロでは(1)<Fast Life>の素朴な童歌のようなメロディーはいかにもヤロンと言った風情が親しみを感じるが突然カットアウトして終わるのには驚く。
ピアノとドラムのデュオでは(2)<Vista>や(3)<Points of You>、(4)<Nettish>などでのジヴの疾走感の漂うリズムにのって縦横無尽に弾くヤロンに新たな境地がみられる。
ドラムのジヴ・ラヴィッツはこれまでの伝統的なジャズ・ドラムのオフ・ビートとか重厚なヘヴィーなサウンドとは全くちがう羽のように軽いリズムとスピード、そしてタイム感覚が今の時代にフィットしているようで、いまや多くのミュージシャンから声がかかる売れっ子ドラマーであるが、本作でもその歯切れのよいリズムはヤロンをおおいに刺激してヤロンの冒険心を引き出すことに成功している。
これまでの作品でもヤロンはクラシックの作曲家の作品をとりあげてきているが今回もスクリャービンの(9)<Prelude No4 Opus 74>を演奏している。ジヴのマレットにのってきれいなタッチでピアノを紡ぐ。この曲はかぶせなしのアコースティックな音録りで1分強の短い演奏ながら一音一音軽やかにプレイを楽しむヤロンにピアニストとしてのきりっとした姿勢をみる。ヤロンは以前アルバム『A TIME FOR EVERYTHING』(LABORIE Records,VideoArts)でもスクリアービンの<3つの前奏曲 Op.35>を演奏しているしヤロンの好みの作曲家なのかも知れない。
ラストの(13)<18:26>ではピアノ・ソロにヤロンとジャン=ピエール・タイエブの二人のヴォーカルが重ねられている。ジャン=ピエール・タイエブはヤロンのこれまでの作品『A TIME FOR EVERYTHING』(LABORIE Records,VideoArts)や『MUSE』(LABORIE Records,VideoArts)でもミュージカル・アドヴァイザーとしてたずさわっていたが本作では単なるヴォーカリスト以上の深いかかわりを持って全編にわたってその影響をより鮮明にしている。
前作『Yaron Herman/Alter Ego』(ACT,2012)では紛争の絶えない中東の平和を願う祈りのようなものを感じたが本作では自分の音楽のルートは祖国イスラエルであるという宣言のようにも受けとれる。ジャズ・シーンの最先端で胎動し始めているテルアビブとニューヨークを結ぶミュージック・シーンの牽引者としてのヤロン・ヘルマンの動きは目が離せないし、また興味深い。
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
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